包み隠さず開示せよ
包み隠さず開示せよ

2015.1.16-2019.10.21
twitter夢垢、tumblrで呟き溜めたSS集。多少の加筆修正あり。
諸事情により前回のまとめに入れていない作品もあるため、一部期間が被っています。
上に行くほど最近のお話です。直で飛びたい方は下のリンクからどうぞ。

:糖度30%以下  :R-15

秘めた開封 | すべての季節を忘れるくらいの整然とした朝を待っている | 指名手配 | まもなく流星:尼
仕掛け | これを恋だと言うのなら | 永久に愛そう:英
腐る他ない | ぬるい嘘:普
僕らの別れを正しさとするように:盧(ルクセン)
曲線美:グレイ伯爵
泣いたりしてばかみたい:二口堅治


material by もずねこ






秘めた開封
APH:尼
R-15 !下品
2019.10.21



箱を彩るキラキラしたリボンの結び目を、彼女の細い指がするりと解いていく。内側が零れないようきつく留められたものをいとも簡単に崩し、一本の紐に戻した彼女はそれを緩く巻いて横に置いた。次に箱側面の金色のシールの端を爪で一度捲ってから、ゆっくりと引き剥がす。跡に粘着物は残っておらず綺麗なままだ。彼女は側面を撫でてそのことを確認してから遂に蓋を持ち上げる。規則的に並べられた、様々な形のチョコレート。その内の一つ、真っ赤なハート型のそれが彼女の黒目に反射したのを正面から見た。

「食べてもいい?」

彼女の意識がおいらへ移る。込み上げる歓喜を抑え込んで許可を出すと、彼女の顔が綻んだ。
親指と人差し指でハートを摘まんで口に入れる様子を艶めかしく感じてしまうのは、おいらの頭の問題である。人肌に溶けて彼女の舌の上に流れたであろう赤を想像し、視姦している気分になって咄嗟に口元を手で覆った。彼女の人肌はおいらのそれとどのようにまぐわうのだろう、などと思考を飛躍させてはいけない。心の内側は覆い隠せても、下半身で悟られては意味がないのだから。
熱が膨張する身体を必死に宥めながら、それでもこの酷い煽りを記憶に焼き付けるべく視線だけは外さない。

「美味しい?」

表情を見れば明らかなことをあえて言葉にすると、何も知らない彼女が頷く。

「美味しいよ。どこで見つけてきたの、これ」

口内に含んだ分全てを飲み込んだらしい彼女は幸せそうだ。飲み込んだ後も、良いな。
欲に塗れた下心は貪欲に彼女を求め煮えたぎる。隠していない目元で微笑んでみせると、準備してきた虚言を滑らかに吐いた。

「実はさっきある人から貰ったんだよね」

一ミリの疑念もなくおいらを信じた彼女が、もう一つを強請った。行為を彷彿とさせるそれに湿った息が漏れる。
今日手に入れた彼女の一部だけで、一体何度抜けるだろうか。


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仕掛け
APH:英
診断メーカー@愛してると突然言われた。そして、だから逃げちゃおうよと笑いかけられる。全部から逃げようよ。
差し出された手は震えていた。弱虫の癖に、と呟いた声は、届かなかった。
[https://shindanmaker.com/587661]
2018.4.27



草臥れた顔の彼が私を離さない。アーサー。彼の腕は彼の肩から伸びて、重力に従いそこにぶら下がっているだけなのに。「」私の名前を呼ばないで。瞼が重い。耳鳴りがする。疲れた。指先が動かないもの。「愛してるんだ」どうしようもない馬鹿だ。後悔を嘗めてかかるアーサー。本当は弱虫の癖に。


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腐る他ない
APH:普
title by 草臥れた愛でよければ
*糖度30%以下
noobodyのかりんさんとの合同ミニ企画で書いたお話です
同タイトル同キャラでそれぞれ自由に書きました
2017.1.27



弟の栄光を僻む程、俺は器の小さい男ではない。弟と俺はそれこそ似て非なる個体であったが、あいつは俺の一部であったし、小さい頃はあいつ自身が俺の一部になりたがっていた。それが今はどうだ、あいつは俺という歴史を糧に、俺という身体を踏み台に、みるみる大きくなって、世界にその名を轟かせている。過大評価でも兄馬鹿でもない。俺の弟は本当に素晴らしい。あいつが幸せなら、苦しい思いをしないのなら、俺の身体だろうが心だろうがぶっ壊れて良かった。



俺の横で安らかな寝息を立てる彼女の頬を撫でる。弟とは似ても似つかない白く透き通った女の肌が俺の指で少しへこんだ。
夜は深い。月が夜を引き連れてきてから暫く経つのに、朝はまだやって来そうにない。星が俺の手の届かない場所でごうごうと音にならない音を立てながら燃えている。


昼間の会議の休憩中、ルッツが酷く疲れた顔で、弱音にもならない弱音を吐いた。元凶である大国共をちらりと見ると、未だにばか騒ぎしている。図体がでかいだけのロボットめ、俺様の弟を困らせるな。ルッツの弱音は大したことがなさすぎるというより、寧ろそんなもん誰だって抱えているような日常的でありきたりの悩みだった。奴は真面目すぎる。あんなロボット達のために、優秀な頭脳を使わないでほしい。
結局今日も会議は踊りそれぞれ宿泊先のホテルへ消えていった。会議室を出る時、ロボットの一人が俺に訊ねた。

「そういえば君、何でここに居るんだい?」
「なんだよ、居ちゃ悪いのかよ」
「だって、今回もドイツがちゃんと出席してるじゃないか」
「こらアメリカ!プロイセンにそんなこと訊かない!こいつは意外と繊細なんだからな」
「小鳥のようにな!」
「フランス、君の言ってることはよく分からないよ」

俺は奴らが専用車に乗せられて見えなくなるまで、気付いていないふりをした。


ベッドがなるべく軋まないようにそっと抜け出して、カーテンを静かに開ける。都会にしては、まあまあ綺麗な空だ。あれから暫く経ったと思ったが、月の位置はほとんど変わっていなかった。
少し移動すると、柔い月の光がに当たる。彼女は深い眠りの中にあって、月の光ごときでは目覚めない。
俺は睡魔のやって来ない夜の過ごし方を忘れてしまった。長距離移動で身体は疲れているのに一向に眠れない。これならを誘っておけば良かった。ガキみたいな激しいセックスなら適度に疲れるし彼女も気が紛れるはずだったのに。

会議中、ロボットの一人がに問うた。

「それで君は、これからどうやって自分を立て直すつもりだい?」

会議室全員の視線が注がれる、まるで絞首台に上った死刑囚のような立場の彼女が、一瞬の隙も見せずに微笑んだ。

「それは、貴方も助けてくれるってことでいいの?」

ロボットの言わんとしたことは俺にも分かる。だからの返答は強がりであり、大国に舐められないための降伏でもある。
上司達は彼女に融資することを決めたらしい。その額は彼女にとっては大金だった。

「情けないわ…今この時も国民が苦しんでいると思うと本当にやるせない」
「それを少しでも解決するための金だろ」
「私が身体でも売って稼ぐことが出来ればいいのに」
「お前の身体一つでできることなんてたかが知れてる」
「分かってるわよ、煩いわね……どうにもならない気持ちをどうにかしようとしてるんじゃない」

彼女は溜息を吐いて、それから目を瞑った。睫毛の緩いカーブが濡れている。湿度の高い憔悴だが、きっと泣けるだけマシなんだろう。

気持ちだけあっても何かが解決するわけではない。優秀な我が弟と比べ、彼女は彼女自身を構成するものに恵まれなかった。本来ならばルッツとそう変わらない賢さを、同じく賢明な人間と豊富な資源を持って活かすことができるはずなのに、いかんせん持って生まれた諸要素が、悪いとは言わないが、別段優れてもいなかった。
心にぽっかりと穴が空いてしまったような虚無感。それに慣れてしまった俺と、焦燥を身体の奥で飼いながら日常を必死にこなす
あああああ。喉の深い場所から絞り出した鈍い声が、俺の口から吐き出される。くそ。窓を開けて腹に溜まった膿のような空気をぶちまけたい。後悔と羞恥と怒りと憎しみと羨望と自殺願望を乱雑に混ぜ合わせて、それに復讐と名付けてむかつく奴らに投げつけたい。そうして後でニコチンを吸って、全てなかったことに。

「…ギルベルト」

掠れた声に我に返ると、が眠たそうな顔でこちらをぼんやりと見ていた。瞳は重そうな瞼にその多くを隠されてはいたが、しかし月の光が差し込んで僅かに反射していた。


「……」
「なあ、暇ならちょっと付き合ってくれ」

俺の不謹慎な発言に反論する力もないのか、寝惚けて思考が追い付かないのか、彼女は彼女の視線のように曖昧に微笑むと、手を俺に向けて浮かせた。重力に逆らったしなやかな彼女の腕が、俺をベッドへ連れ戻す。俺は彼女の部屋着のボタンに手をかけながら、大して分泌されていなかった唾液を飲み込んだ。
ルッツが不利益を被らなければ、苦しみを味わわなければ、俺達だけが勝利していれば。
それだけで、良かったはずなのに。


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すべての季節を忘れるくらいの整然とした朝を待っている
APH:尼
title by mjolnir
診断メーカー@あなたは『あなたと出会ってから涙もろくなった、って白状する』ルー君のことを妄想してみてください。
[https://shindanmaker.com/450823]
2017.1.4



イヤホンが壊れたので、新しいものを買ってきた。個人的にあんまりしっくりくる色ではなかったけれど、彼が良いと言うから買ったそれは、平凡な聴力の私には何が良いのかさっぱり分からなかった。携帯からいつもと同じメロディーが再生される。

「どう?イヤホンの調子は」
「違いが分からない。ごめん」
「えー!絶対こっちの方が良いって」

自分も私のと色違いのを買って早速音楽プレイヤーに差し込んだルー君は、ほらやっぱり、こっちの方が良い、なんて抜かす。私は壊れたイヤホンの、あのぷつぷつと不規則に途切れる音楽と比べたら、確かにこちらの方がマシだと考えて、携帯を操作しながら、そうね、などと適当に返した。感覚器官の出来が違うのだから、どうせ私には理解できない。いつもそうだ。ルー君は意外と感受性が強い。し、人と少しずれている節がある。映画などを観ていても、きっとほとんどの人が流してしまうような、ストーリー上特に問題のない付属品みたいなところにひっそりと胸を打たれて、一人で泣いている。ばかなひと。

「あ……やばいかも」
「何?」

焦る彼の声に顔を上げると、目に涙を溜めたルー君が音楽プレイヤーをじっと見つめている。ああ、また。

「……

今下を向いたら、駄目でしょ。そう言うはずが、時既に遅し。泣いているのが恥ずかしいのか彼は俯いてしまい、当然のことながら涙は重力に従って零れた。間抜けだ。上を向いていれば治まっただろうに。

「何、悲しい歌でも流れてきた?というか、それルー君が好きで入れてる曲でしょうに。耐性無さすぎじゃない?大丈夫?」
「あはは……これ、懐かしい曲でさあ。色々思い出したらなんか悲しくなった」
「そうなんだ」
に片想いしてた時に、よく聴いてたんだ」

涙が彼の頬をするりと撫でて落ちていく。その通り道はルー君の感情に合わせてほとんど同じ場所に現れたり消えたりする、涸川だった。こんな時彼の心は決まってネガティブなので、ルー君は嬉しい時ではなく悲しい時に涙を流す人だというのは割と出会ってすぐに知ったし、同時に可哀想に思った。ルー君は今までに何回泣いたのだろう。

「私だって貴方にずっと片想いしてた。自分だけだと思わないでよ」
「気付いてないんだから、同じだよ。その時の辛さは本物だから」
「…ルー君って、泣き虫だよね」
のせいだよ」

ルー君はイヤホンを外して、悲しそうに笑う。彼の瞳は彼の涙の中に沈んでいる。光を入れたら、反射が美しいんだろうなと思った。

のせいなんだ」

念を押すように同じことを呟いたルー君は静かに涙を拭う。私を責めているようで、しかし怒りを孕んではいない、第三者の視線だった。
本来ならば愛しいはずのない第三者のそれが、今この瞬間、私にはとても愛しくて痛い。


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指名手配
APH:尼
夢書き深夜の真剣執筆60分一本勝負
お題:例えば君が他の誰かと幸せになった未来
2016.9.10



欲情。嫉妬。苛立ち。おいらの胸はきりきりと痛む。生きるために必要な臓器を炙られているみたいで辛い。熱は身体の内側をゆっくり確実に蝕んでいく。おいらは怖くなって彼女に声をかけた。彼女を壊してしまわないよう細心の注意を払って、酷く優しい手付きで彼女の身体に触れる。

「駄目だよ、」

そう言ってわざとらしく、皆の視線を感じながら彼女の口を塞ぐ。卑猥に濡れた彼女の唇を舌で舐めて、それからアルコールまみれの口内を犯した。周りの男の何人かの瞳に驚きと絶望が宿り始める。
は酔っているのかおいらの真っ黒なキスを受けながらへらへらと笑っている。時々頬の内側を舐めたり舌を吸ってやると気持ち良さそうにするのが可愛いけど、そんな顔、外でやっちゃいけないよって後で教えてあげなければと思った。おいらに身を委ねるのは構わないけど、周りを揺さぶるのは駄目だ。ああでも今は、逆なのかな。こうやって大胆に、狡猾に、彼女を気持ち良くさせながら、おいらは牽制する。
男の視線はいついかなる時も清潔なことはない。が思うよりもずっと下衆で汚れていて臭い。男のおいらが言うのだから、そうなんだ。
駄目だよ、彼女に手を出したら。瞼の裏でキスをするのも許さない。少しでも想像したら、おいらの身体の内側を焦がす熱でお前の持ち物を一つ残らず焼いてやる。
おいらはキスを終えると、そのまま彼女を連れて店を出た。家に帰ったら、彼女の身体の男が触れた場所を念入りに洗わなければならない。


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これを恋だと言うのなら
APH:英
2016.6.16



俺が薔薇の剪定をしている時に、彼女は落ちた方の薔薇を見た。俺が落としたそれを、慈しむように拾い上げてそっと手で包む。

「もっと綺麗なのをやるから」
「いいよ、わざわざ切らなくて。もったいない」

同じものを見て同じ気持ちを持つなど不可能に近い。だから分かり合う必要はない。
剪定したものの中にはまだ薔薇になりきれていないものもあるのに、彼女は満足そうだった。理解しがたいと、思う。
は剪定によって省かれた未完成な薔薇を含む沢山のそれらを、もう使わなくなった白い大きな皿の上に並べてダイニングテーブルの真ん中に置いた。光の加減で所々靄のような鈍い反射をするまだ緑の薔薇たち。

「花は咲いてないけど、いいでしょ?」

俺は否定はしなかったが頷きもしなかった。
彼女は本当に理解しがたい。何百年も一緒にいるのに、こちらが納得しうる感性なんか数える程しかなかった。この女のどこに惚れているのか、疑問に思うことすらある。

「このまま置いておいても、茶色くなって捨てるだけだぞ」
「アーサーって夢がないわね」

が溜め息を吐いた。
夢。夢とは一体何だ。

「水をあげたら枯れないかもしれないじゃない」

俺には分からない。しかし、彼女の世界が特別高次元なのか、俺が普通なのか、そんなのはもはやどうでも良い。
だが、どうせなら、俺にも彼女と同じものを、同じように見せてほしかった。寝起きの重い瞼のように見たいものを阻害したり、薔薇の蕾の鈍い靄のように本質を隠したりせずに、鏡とも写真とも違う、人の目だけが写せる輪郭と色を脳に認識してほしかった。それが出来ないのが悔しく、悲しい。俺は摘み取られた薔薇がいつかは茶色くなって駄目になることを知ってしまっている。

「…大事にしろよ」
「私の話聞いてなかったのね。会話が噛み合ってないわ」

彼女は言葉よりもずっと深刻でない様子で、霧吹きで薔薇たちに水をかけた。の口元が僅かに緩む。
理解したい、そう思った。水滴を弾く薔薇たちは、まるで息をしているようだ。


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ぬるい嘘
APH:普
*糖度30%以下
夢書き深夜の真剣執筆60分一本勝負
お題:黒と白
2016.4.23



彼女は俺を嘲笑うかのような短い息を吐いたのち、部下に人払いをさせた。

「本音をどうぞ」
「お前のことが嫌いだ」

先程発したものと一文字も違わない言葉を彼女に伝えると、ただでさえ不機嫌だった彼女の眉間に皺が寄る。なんてもったいないことをするんだと呆れるが、それを口に出しはしない。

「誰に頼まれたの?いくら注ぎ込まれた?エイプリルフールは今日じゃない」
「傲慢すぎるぞお前」
「…それが答えなのね」

今この場で嘘をつくメリットがどこにある?俺は胸に潜む矛盾を殴り飛ばして笑ってやった。すると彼女もほのかに笑う。

「素敵よギルベルト。次に会ったら、」

彼女の大きな瞳が揺れる。駄目だ馬鹿かお前は。ここで泣いたら俺の思う壺だろ。周りをよく見て強かに生きて、自分の内側にのみ優しさを向けろ。

「…そのむかつく顔、叩いてあげるわ」

好きだ。好きだ。好きだ。
力任せに彼女の身体を抱き締めた。

酷いことをしている自覚はある。彼女の首に手をかけている気分だ。しかしこれが最善のやり方だ。俺がこの先どうなったとしても、彼女には生を享受させたかった。
向こうで階段をかけ上がる足音が聞こえる。俺は彼女を解放してやり、それから静かに言い放つ。

「お前が嫌いだ」

乾いた音の後にひりひりと痛む頬の感覚に、叩かれたのだと理解したのは数秒経ってからだった。その時には彼女はもう、国民から慕われる気高い女に戻っていた。

「フライングすんじゃねぇよ」
「貴方にも、自分の無力さを嘆く日が来るのかしら」

彼女の部下が彼女を迎えに来た。俺は彼女が見えなくなるまで彼女の背中を眺めていたが、彼女が俺の方を向くことはなかった。
自分の無力さなどとうに実感している。そしてそれを嘆くのが例えば今のような時だと告げたら、彼女はどんな顔をするのだろうか。


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僕らの別れを正しさとするように
APH:盧(ルクセン)
title by mjolnir
2016.4.20



とん、と肩を優しく押されて、私はそのまま後ろのソファーに落ちた。落ちたと言うのは、そのソファーが想像以上にふかふかでお尻が深く沈んだからだ。ちょっとびっくりして体勢を崩しかけるも、タイトなスカートを履いていることを思い出して膝だけは女性らしく閉じたままでいる。

「大丈夫ですか?」

視線を上げると、きょとんとした顔のルクセンが私を見つめていた。

「そんな子に育てた覚えはないわ」
「自分も貴女に育てられた覚えはありませんが」

私は彼を鼻で笑う。そういえば彼の兄はあの男だった。流石兄弟だ。こういうところは兄にそっくりだと思う。紳士の皮を被っても、必ずボロが出るのだ。

「…何がしたいの?」
「何が、とは?」

部屋の外からスペイン達の声が聞こえる。ルクセンを睨むと、彼は両手を上げて白々しい弁解を始めた。

「すみません、手が滑って」
「痴漢の言い訳の常套句みたいよ」
「コミュニケーションですよ」
「最低ね」

スペインが笑っている。一緒に居るのはロマーノだろうか。二人がどんどんこの部屋に近付いてくる。
こんなところを二人に見られたらおしまいだ。たとえ私にどんなに強い権力があっても、おしゃべりな彼らに箝口令など敷いても無駄だからだ。

「姉さん」

突然ルクセンが私を覆うように抱き締めた。反射的に短い悲鳴が漏れるが、そんなことお構い無しというようにルクセンは私の耳元で囁いた。ふかふかのソファーに膝をついたルクセンのせいで逃れられない。

「ベルギーなら、多分四階の休憩室に…」
「姉さんってば」
「…私は貴方の姉さんじゃないわ」

ルクセンが息を漏らす。ドアの向こうで、スペインの声が一番大きく響いた。私は目を瞑る。

「ね、やめましょうよ」

いつになく低い声に身体が震えた。すると彼が私の肩を繊細な指先で厭らしく撫でる。彼から顔を背けて恐る恐る目を開けると、私の横に置かれた彼の大きな手の先にある、短く切り揃えられた爪が綺麗な弧を描いていた。

「このまま平行でいるのは辛いじゃないですか、お互いに」

がちゃり、とノブが回される音がして、私はばっとドアの方を見る。
もう、駄目だ。

「おお!ルクセン達ここにおった!探したんやで!」
「や、言ったはずですよ」

先程まで至近距離から聞こえていたルクセンの声が遠くなっていて、ドアが開くギリギリのタイミングで退けたのだと分かった。私は息を吐く。未だに動悸は治まらない。

「ん?、どないしたん、怖い顔して…」
「てめえがうるせーから嫌がってんだよ!離れろよ!」
「えー!そうなん!?」
「違うから…ロマーノも変なこと言わないで」

にこにこ笑って私達を見ているルクセンに色んな思いが交錯するも、スペイン達に見られなくて良かったという安堵で、私は油断した。

「姉さんはそんなことで誰かを嫌いになったりしませんよ」

ねぇ?なんて首を傾げるルクセンは悪魔だ。その狡猾さと、スペインやロマーノの阿呆で愛らしい性質とは、天と地程の差がある。
ルクセンは分かっているのだ。どう足掻いても私がルクセンを見放さないことを。結局は私が絆されることを。
酷く目眩がした。ルクセンは相変わらず微笑みを携えて、私の返答を待っている。


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永久に愛そう
APH:英
*糖度30%以下 !!ちょっと注意
夢書き深夜の真剣執筆60分一本勝負
お題:君の背中を追いかける
2016.3.16



唇だけで彼女の名前を呟いた。上司が聞いたら、また俺を変な目で見るからだ。そのせいであまり彼女に会えない。悲しいことだと思う。そんなことをしている暇があったら、優秀な科学者を早く作って欲しいものだ。俺の給料を減らしてもいいから、それを人材育成のために使え。研究機関に投資しろ。
今の科学では、足りないんだ。
液体の中で眠る彼女をガラス越しに眺める。俺が今よりもっとずっと小さかった頃から見ていた。彼女だけを見ていた。俺が守ってやりたかった。彼女は俺の全てであったし、俺や他の国連中と同じとは思えない程とても有能で、失うには惜しい女性だった。皆から慕われていた。
だから、国として形を成せなくなったとしても、生きていなくてはいけないんだ。
誰からも認められなくていい。称賛されなくていい。蔑まれても嫌われてもいい。代わり映えのない毎日を代えがたい毎日に洗い直して、また一緒に過ごそう。
涙の味は絶望に似ている。
これだけを食うのは飽きたんだ。
だから早く、太陽が沈む前に。地球が腐る前に。銀河がぶつかる前に。
俺だけが彼女を。


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泣いたりしてばかみたい
HQ:二口堅治
title by 草臥れた愛でよければ
noobodyのかりんさんとの合同ミニ企画で書いたお話です
同タイトル同キャラでそれぞれ自由に書きました
2016.1.22
*高校卒業後、大学へ進学した設定です。


三年の夏、何を思ったのか就職でなく進学を選んだ俺は死に物狂いで勉強しどうにか合格を勝ち取った。その進学先で一年を過ごしてから、再会した。変わらない髪色に安堵を覚えて、酷く女らしくなった身体にドギマギした。

「あ、二口」

大して驚いていないのだろうその顔は、俺の褪せた気持ちを掘り起こすには十分すぎる。部活の先輩後輩の延長を思わせる、日常的な所作だ。
高校生の時は進路をいくら尋ねても「決まったら言うよ」なんて都合のいい言葉ではぐらかされて、けれど彼女は引退してから部活に顔を出すことはほとんどなかった。卒業後も同じである。連絡先は知らなかった。だからまさか大学どころかゼミまで一緒になるとは思ってもみなかったのだ。俺は間抜けな返事をした。

「誰?知り合い?」
「高校の時の部活の後輩」

友達らしき人に訊かれて、さんが俺をそう紹介する。いや、分かっているとも。彼女にとって俺はそのポジションでしかないことくらい。進学先だって意図的に隠していたとしか思えないもんな。茂庭さんでさえ知らなかったんだぜ。
それにしてもさんの落ち着きようには少しだけ腹が立つ。俺を見てもっと驚愕して、しどろもどろになればいいのに。俺が他の伊達工OBにばらすとか考えないのだろうか。秘密にする代わりに私にやれることなら何でもするわとか、じゃあまずは服を脱いで下さいとか、そんな美味しい展開になったりしないのか。いや、無いか。
モヤモヤした思考を抱えたままだったせいかゼミの教授の話を半分以上逃してしまう。休憩時間になって、俺のすっからかんなルーズリーフを見たさんが笑った。頭だけは変わらない、だそうだ。余計なお世話だと思う。

「そういうさんは随分色気づいちゃって。男でもできたんすか?」

仕返しに意地の悪い質問をしてみる。頭だけは変わらずアレな俺と同じ大学にいることに驚かなかった彼女が、これで動揺の一つでもすればいいと思った。

「口だけは達者なんだから」

半ば呆れたように、半ば楽しそうに、さんの口から流れる言葉の真意は分からなかった。またはぐらかされたと理解するにはさほど時間を要さない。この人は慣れているのだ。俺は溜息を押し殺す。

「二口は、彼女の一人でもできた?」

高校時代から意外とモテたもんね、なんてからかうような顔で見られる。俺は彼女の真似をして曖昧な笑顔で返してやった。

さん、飯行きませんか」

彼女と彼女の友達が何か言う前に、さんの手を引いて連れ出した。それでも尚、さんはきょとんとした様子で俺に連れていかれるだけだった。学食を過ぎた辺りで振り返り、彼女の手を離す。

「何か言うことないんですか」

そこでやっと、彼女の顔から笑顔が消える。試合前の、彼女の緊張した面持ちを思い出した。以前、選手でもないくせにとからかったことがあった。でも今は反省している。彼女も、俺達と同じ気持ちだと分かったからだ。

「二口は、いつも質問ばかりね」
さんはいつも本当のことを言いませんよね」

面倒な問題児だった俺達のことを可愛がってくれた。先輩達を上手に使って、支えていた。バレーのこともそれ以外のことも沢山教えてくれた。だけど肝心の、彼女自身についてはほとんど教えてくれなかった。心をどこか遠くに追いやっている人で、もう一歩先には踏み込めなかった。

「知りたいんですよ、さんのこと」
「私のことを知って、二口はどうするの?」
「どうしてほしいんすか」

さんの目が揺らいだ。烏野に負けた時の、彼女の顔がよぎる。 この人が泣いたのは後にも先にもこの時だけだった。

「どうしてほしいって…」
「教えて下さい。さんのこと」

そうだ、ただの欲だ。知識欲と呼べる程崇高ではないが、下劣でもない。やっぱり俺は高校時代から何一つ変わってはいない。頭も阿呆のままだ。断ち切ることも出来ずに引き摺ってきた。ずっと知りたくて触れたくてたまらなかった。彼女が好きだ。
躱すのは、逃げるのは、もう許さない。


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まもなく流星
APH:尼
title by sprinklamp,
I love you = ルー君『助けてしんでしまう』[http://shindanmaker.com/276356]
2015.7.22



かたり、と無機質な音がする。私はその不自然を疑問に思いイスに座ったまま振り返ると得体の知れない闇に覆われた。だがすぐにその闇は晴れて向こうが見える。いつもと変わらない職場。唯一違うのは、私の身体には何か別の温もりが貼り付いていることだ。

「ごめん」

聞き慣れた声が私の耳を擽る。ほとんど無意識に手を添えた先は彼の背中だった。ルー君が私を抱き締めている。静まり返る部屋に、私ははっと我に返って慌てて彼の肩を押した。

「ルー君、人が来る」
「…大丈夫だよ」

押してもびくともしなかった彼は、ついに私の唇を自分のそれでなぞった。迫り来る羞恥から気を逸らすため瞬きをして視線を下げると、逃がさないと言わんばかりにルー君が再びキスをする。今度は少し深い。角度を変えると僅かに水音が漏れた。
恥ずかしい。本当に恥ずかしい。今は部屋に私達しか居ないけど、誰かが戻ってこないとも限らない。同僚に私達のことを知られるのは駄目ではないがかなり面倒だ。

「…ルー君、私、仕事しなきゃ…」

唇を啄まれながらそう言えば、ルー君がくすりと笑って私の座るイスに片膝をかけた。

「もう終わってるくせに」

彼は私のデスクに鎮座するノートパソコンを閉じると、私の唇を上手に抉じ開けた。生暖かい息を飲み込んで必死に彼の動きについていく。もう互いの唾液を交換しつくしたのではないかというところまで果ててから、ルー君がもう一度ごめんねと苦笑した。


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曲線美
黒執事:グレイ伯爵
R-15
2015.1.16



「優秀だね」

乱れた髪を整えて服に手を伸ばす彼女の背中を見つめながら、思ったことを素直に口にする。彼女が座るベッドの端のシーツがそこだけ滑らかな皺を作り、窓から月が冷たく照らした。ボクは一応下半身だけ布団の下に隠してそっと彼女に近付いた。

「いけません」
「あれ、意外だ。さっきまでもっと恥ずかしいことしてたのにね」
「仕事が残っておりますので」
「ボクは続きがしたいんだけど。ボクの言うこと聞けないの?」
「お身体に障りますよ、坊っちゃん」
「その呼び方やめろよ」

後ろから彼女を抱き締めるとボクよりも小さな肩に力が入った。

「私はずっと貴方様の下におります」
「何それ、誘ってるの?何なの?」
「抱きたいのでしたら、お好きなように」
「殺したいよ」
「お好きなように」


ベッドから降りて彼女と目線を合わせた。相変わらず厭らしい女だと思った。

「愛してるよ」
「左様ですか」
「だから殺さない」
「左様ですか」
、メイドみたいなこと言わないで」
「私は貴方のメイドです」
「…抱きたい」
「お好きなように」

何だか無性に悲しくなって彼女を押し倒した。シーツの波が新たな皺を作る。

「ボクはお前と生きたいんだけどなあ」
「貴族は貴族以外の方との婚姻は許されません」
「うん、それが間違ってると思う」

が何か言おうと口を開いたところをボクは塞いだ。熱っぽくて、赤くて、ふしだらで、だけどどこか可哀想だった。

「…子供」
「……?」
「子供ができたら、ボクと一緒になってくれる?」
「…私が、この屋敷を追われるだけですよ」
「そんなことさせない」
「坊っちゃん、」
「だからやめろって」
「チャールズ様、私は、分を弁えているつもりです。貴方様と私では、身分どころか、住む世界が違いすぎます」
「だから何」
「お諦め下さい」

柔らかく微笑むはボクの心臓をいつもこんな風に抉り取る。ボクはマゾじゃないけど彼女の溢す言葉にはいちいち興奮する。彼女の脚を持ち上げて肩にかけると、が驚いた顔をした。好きになってしまった今では、そんなのもいちいち可愛くて仕方がなかった。

「子供、作ろうか」
「坊っちゃん」
「だって、が言ったんじゃん。力ずくで手に入れろって」
「解釈の幅がお広いのですね」
「誉め言葉だね」

更に距離を詰めて彼女を抱き締める。

「君がボクの下になるのは、ベッドの中だけでいいんだよ」

が小さく溜め息を吐いてゆっくり瞼を閉じた。ボクは彼女の耳に舌を這わせて息だけで呟く。

「優秀だ」


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