喉が嗄れる頃01



国家そのものであるというだけで、姿形は同じなのに人間とは異なっていた。自分に限らず国家なんてものは皆大体そうなのだという。その上自分には、国民性と言うに相応しい力も備わっていた。魔法が使える力。一時期はヨーロッパ中で酷く忌み嫌われたそれは、今となっても信じられている半面畏れられている。おいらは首都にある家の他に、田舎の方にもう一つ、別荘とは呼べない程の質素な家を与えられていた。国が安定している時は首都の家で過ごすが、そうでない時や魔法について何かをする時は自ら田舎に引っ込む。上司がどんな理由でその田舎の家を与えたかは分からないが、都合がよかった。自分達に出来ないことをやってのける他人程、気味の悪い存在はない。仕方がないのだ。
そんなわけで一人自宅に籠って魔導書を読み漁っていると、時間なんてあっという間に過ぎてしまう。腹が減るだけで食べなくても死なない。ご飯を抜いたこともあった。やはり死なない。始めこそ腹の虫は煩く鳴いていたが、無視し続ければ請う元気も失せたらしく黙った。秘書は休暇中で暫く会っていない。

「ルー君、ルー君ってば」

女の声がした。とうとう幻聴まで聞こえるようになったのだろうか。おいらは自分の身体を存在意義ごと憂えた。

「ちょっと、聞いてるの?」
「……」
「目が死んでる。大丈夫?」

女がおいらの頬を撫でる。心配そうな声色とは裏腹に彼女は無表情だ。

「どこから入ったの」
「鍵を閉めないなんて、不用心すぎるわよ」
「そういえば閉めた記憶がないや…」
「…本当に大丈夫?」


おいらが彼女に手を伸ばす。すると彼女はさっと身を引いて一歩後ずさった。

「酷い臭い」
「何?」
「…水浴びしてる?」
「……」
「信じられないわね」

が呆れたように溜め息を吐く。それにちょっとむかついて、おいらはわざとらしく不貞腐れた。

「水浴びなんかしなくても死なないよ」
「生きるか死ぬかの問題じゃないのよ。臭いのよ。せめて体くらい拭いてよ。それから服も着替えて」
「今忙しいから後でやるよ忠告ありがとう」
「客が来てるっていうのにお茶も出さず死にかけてるだなんて。これ以上の醜態を晒す気?」

舌打ちして立ち上がる。彼女の方を見ると満足げで益々苛ついた。ああ、くそ。体が綺麗でもっと体力があったら今すぐここで床に押し倒すのに。それが出来ないのは男としてのプライドと、少なからずを大事にしているこの心のせいだ。まったく面倒なものばかりおいらの手の中にある。どう足掻いても捨てられないのは分かってる。
そこでふと面白いことを思い付いたおいらは、なるべく自然に、彼女に提案した。彼女が少しでも困れば大成功だった。

「じゃあ、も手伝ってよ」

すると彼女は一瞬ぽかんとした顔でおいらを見つめてから、肩を竦めて意地悪い笑みで承諾してしまった。


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2016.3.15 喉が嗄れる頃
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