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「ここもう一回教えて」

彼女は、要領が悪いねと笑った。部活ばかりやってちっとも勉強しないから前日に泣くことになるんだよと言って、勉強に付き合ってくれた。と俺はこの間の席替えで隣の席になって仲良くなった。俺がいちいち話しかける度に、ちゃんと俺以上の言葉を返してくれて、意外とサバサバしている彼女は男子の中で密かにモテていた。顔はかわいいというより端正で、男の行動を把握したがらないということもあり、付き合ったら楽なのだろう。でも、が誰かと付き合っているという話は今まで聞いたことがない。そういうのに興味がないのではないかと少し心配になっている。女なんて溢れるほどいるのに、他で我慢しようと思えなくなるから恋は辛い。ついでに言うと片想いはもっと辛い。相手に気持ちが届いていようがいまいが、少なくとも自分が望む気持ちを向けられることはない、あくまで一方通行な感情だからだ。

「グラフを書くと解りやすいと思うよ」
「や、なんつーか…グラフが書けない…」

彼女がまた笑った。端正な顔が幼くなる、が笑う瞬間が俺は好きだ。図書室だから音量は控えめだけど、よく通る澄んだ声も好きだ。こんな風に二人だけでいることも、明日に迫る考査の勉強に誘うのも初めてだった。男と二人きりだから変な風に思われないかとか、何か下心を見透かされたりしたらどうしようとか、色んな不安が誘った後になって押し寄せて、どうしようもなく女々しくなった。だって、下心がまったくないかと言えば、嘘になる。好きな子と一緒にいたいという気持ちは立派な下心だ。

「高瀬って意外と何もできないんだね」
「何もって言うなよ」

下心を持ったまま一方通行でいるとそのうち変態になる、俺のこの偏見がいつか自分に当てはまりそうで恐ろしくなる。ただ、俺はそうなる条件を本当は満たしていない。と信じたい。下心は持っているけど、一方通行ではないと確信したい。だって、こんな風に俺と二人だけになることが分かっているのに、軽い気持ちでほいほい着いてくるような女子じゃない、は。
男女間の友情はどちらかに恋愛感情がないと成り立たないと言うなら、この関係をぶち壊すためにはやはり俺が下心をはき散らすべきなんだろうけど、俺たちの間を埋め尽くしているのは果たして本当に俺の恋愛感情だけなのか。お互いの気持ちのベクトルがお互いを向いていることを確信するためには、どうすれば。

「うん、じゃあグラフの書き方から説明するから、帰りジュース奢って」

送りがてら、それを直接確認するしかないらしい。




2013.10.15
過去拍手御礼(2012.9.1-2013.10.15)