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陽が沈まない。 おかしいと思い左腕を見る。午後7時14分。再び辺りを見回す。街は明るい。元々少ない人々は中心からぞくぞくと離れていく。 なんだろう。 私は約束した場所で一人立ち尽くす。ぞわぞわしているのは私の心臓だ。まさか、彼が時間通りに来ないわけがないし、忘れて来ないなんてもっとない。 私はここでどうにかなるはずはない。 ロンドンの街は綺麗だ。私の国には無いものがたくさん地面から生えていて、散らばっている。 少し涼しい風が頬を撫でて、今日もまた曇り空。ここの雨は正直たかが知れていたので、「雨」が降っている時は私も彼を見習って傘を差さないで歩く。 でも彼は大概、自分は絶対に差さない紺色のシンプルな傘を私の頭の上に差してくれる。 その後は決まって麗しい皮肉が私の鼓膜を破ろうとした。 「…わっ」 息を切らした男が顔と体を歪めて目の前に立っていた。思わず声を上げてしまう。 金髪が乱れているのを眺めながら、彼の息が私に触れないかドキドキしていた。 「別に遅れてないわ。どうしてそんなに急いで来たの?」 「お前っ…はあ、はあ……なんで…」 曲がった背中を撫でたら少し汗ばんでいた。私のために急いでくれたのかと思うと自然と気持ちが高揚してくる。 「何で連絡寄越さなかった!」 ブロンド美女が振り返る。突然の大きな声に私以外の人も驚いて、心の狭い私はそのことに嫉妬を覚えた。先程の高揚は停滞し始める。なんて可愛くない。 明らかに不機嫌な顔をした私を別の意味に取ったアーサーが舌打ちした。悪循環。 「アーサー、」 「こんな時間に一人で、危険だとは思わなかったのか」 「え?」 「…陽が沈むのが遅いんだよ、この季節は」 ああ、そういえばそうだった。学生時代に習った気がする、教科書で。何だ。天変地異を少しでも疑った自分が恥ずかしくなる。日本と同じ感覚で居すぎてしまった。いやそれは今はどうでもいい。問題は、アーサーが何を伝えたいのか分からないことだ。 「で、どうしたの?」 「どうしたのって、お前なあ…」 「だって、アーサー、意味が分からないわ。今丁度待ち合わせの時間になったところだし…大体場所と時間決めたのアーサーじゃない」 「そう、今だ。今時間になったんだ。それなのにお前は時間前に来て俺を待ってただろ」 「…つまり?」 「俺より先に来るな」 うーん、全くもって理解不能だが、アーサーが困った顔をしているので分かったと言った。納得いかないのはお互い様だもの。 「アーサー、手繋いで」 眉間に皺をよせながらもちゃんと繋いでくれる。珍しく今日は恋人繋ぎだ。寂しいのかしら。 私達は目当ての店に向かって歩き出す。 「こんなに早く来るって分かってたなら俺も急いだんだがな」 ぼそぼそ喋る彼が可笑しくて控え目に抱きついた。明らかに挙動不審になるのが可愛い。 無言で手にぎゅっと力を込められる。 「…会いたかった」 真っ赤な顔の二人が明るい夜のロンドンを歩く。通りすがりの老夫婦が優しい微笑みをくれた。
捕まえた
2014.2.18
過去拍手御礼(2013.10.15-2014.2.18) |