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シャッターチャンス
「」 振り返ると、彼は手に分厚い箱を抱えていた。食器を片付けていた私は棚の戸を閉めるとエプロンを外しながら彼のもとへ行く。 「これ、」 箱の蓋を開けると、おびただしい数の写真が整理されることなく詰め込まれている。アーサーがまとめてそれらを出すと、彼の両手から溢れ出た写真がぱらぱらと床へ落ちた。 机の上で見ようと提案すると、出した写真をもう一度箱にしまい、落ちたそれらも拾い上げて同じようにする。 「懐かしい。よくとっておいたわね、こんな昔のまで」 若い頃、とまではいかないにせよ、かなり古い写真も確認できた。アーサーと、私と、上司と、それから他の国々が写っているものもある。 それにしても酷く膨大な量だ。聞いてみたら、これは彼の所有する写真のほんの一部だそうで、現像してないものもあるらしい。 私がそれを眺めていると、彼が箱の下の方から、この箱の中の写真で最も古いものの一枚を取り出して、不思議なことを言った。 「これが、誰かと一緒に見ることのできる、一番昔の写真だな」 勿論言ってることは分かった。しかし意図がまったく読めない。 「そうなんだ」 「こうやって物理的に見ることで、その時のことをより明瞭に思い出せたりする」 「そうね。でも、自分の頭の中にしかないことも大事だと思うわ」 すると、アーサーが悲しそうに笑った。 「なんでも、覚えているうちはな」 アーサーはたくさんの写真たちを今度は上手に掬い上げて、私に至極真面目に問うた。 「昔のこと、思い出したりするか?」 「するわよ」 「何もかも完璧にか?」 「完璧ではないけど、懐かしむことはあるわ」 そうか、と呟いて、彼は突然手にした写真を自分の頭の上から降らせた。 呆気に取られた私は、ただ写真が落ち葉のように流れ落ちるのを見ているだけだった。 「何でもないんだ」 「どうしたのアーサー…」 「何でもないし、何もないんだ」 それから時が止まったように静寂を貫いた私達は、暫くして訪れた日没と共に再び動き出した。 ベッドに潜り込んでから、昔の腕の傷を一撫でして、私はやっと気付く。
2013.12.21
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