壮大な理想主義
壮大な理想主義



まったく思考が働かない。目の前の上司が何を言っているのか分からない。私はヤムライハ様から休憩を頂いたので、日の光でも浴びようかと中庭に向かっていたところだった。


「すみませんが、もう一度言って頂けますか」
さん、今お暇ですか?」
「はあ、休憩を頂いているので、暇といえば暇ですが」


これも二度目の会話だ。そしてこの後には再び同じ言葉が並べられるのだろう。


「ちょっと私に付き合ってくれませんか」


ほら来た。結局改善されていない。努力する気もなさそうだ。毎度同じことをされても面倒なので、私は自分が作れるとびきりの笑顔を顔面に貼り付けて、酷く優しい声で言った。


「ごめんなさい、そういう暇はないです」


私はそのまま彼の横を通り過ぎようとする。しかし、彼は男の歩幅と力でそれをいとも簡単に遮った。


「ちょっと、二人で出掛けませんか」
「すみません、忙しいので」
「お茶が美味しいお店を見つけたのですが」
「光合成をしなければならないので」


八人将の一人であるジャーファルさんと、ただの平魔導士である私が笑顔で謎の攻防をしているなんて、一体誰が気付くだろうか。ずんずん歩いていき中庭へ降りると当然のように彼も歩いてくる。しつこい。


「その光合成とは何ですか?新しい魔法ですか?」
「貴方に話すべきことではありません」


頭の悪い男は好きじゃない。要領の悪い男も好きじゃない。無知な男も、それを改善する努力をしない男も。


「分かりました。この際、はっきり申し上げましょう」
「何です」
「貴女のことが好きです、さん」


流石に堪忍袋の緒が切れたというか、面倒くさくなってしまった。勘違いも甚だしい。世の中の男、と一纏めにするのは良くないけど、でも恐らく彼にとっても私は世の中の女の一人として扱われていただろうし、しょうがない。その彼にとっての世の中の女というのが、おしとやかで温室にある花みたいに弱く可憐なものなのだから、尚更である。


「貴方は一体私に何を求めてるの?」


敬語というオブラートをぺりぺり剥がした私が今度は彼の前に立ちはだかる。


「私もこの際だからはっきり言うわ。貴方のこと、なんとも思ってないってね」
「…別に、今はそれでも構いませんよ。始まりなんて、そんなものでしょう」
「頭の悪い男は嫌いなの」


無遠慮に私の手を掴む彼の白いそれを、私は杖できつく叩いた。ジャーファルさんは驚いた顔で私を見つめる。その傲慢な瞳が、更に私を苛つかせた。


「私がそこら辺のか弱い女と同じだと思った?」
「どういう、ことですか?」
「好きだと言われれば頬を赤く染めるような女だと思った?花をあげれば嬉しそうに口元を緩める女だと思ってた?貴方の意見に黙ってついていくとでも?健気に貴方の帰りを待つような馬鹿女だとでも?舐めてんじゃないわよ」


私は杖に乗って飛ぶ体勢を取る。


「ですが、私は本当に貴女のことが、」
「貴方が愛しているのは私じゃなくて恋と女でしょう?」
「そんなこと…!」
「頭の悪い男は嫌いって言ったじゃない。さようなら夢見がちボーイ」


地面から足を放してふわりと浮かぶと、そのまま上へと飛んでいく。彼の姿が小さくなってもうほとんど見えなくなった頃、私の目から涙が溢れた。太陽が痛い。




2014.1.18
お茶会ありがとうございました!