類似品を知っている


「触らないで」


彼を拒絶した手は今の彼よりも情けなく宙に浮かんでいる。私は途端に恥ずかしくなってさっと手を元の場所に戻すと、彼に背を向けた。


「私のこと何も知らないで。安い言葉なんかかけなくていい」
「お前のことなんか知らねえよ、当たり前だろ。何も言わねえからな。お前は昔からそうだ」


彼はテーブルの上に何かを置いた。私はゆっくりと振り返って、そして後悔する。


「何で、ギルが持ってるのよ」
「ずっと知ってた。お前があいつを見てるのも、あいつの為に何かしてるのも、…それが叶わないことも」
「やめて!」


言葉にするととても重い。ギルがテーブルに置いた、私の口紅が歪む。自分が健気にもやってきた、ウブな言動を思い出して死んでしまいそうになる。泣き出してしまいそうになる。


「いい加減諦めろよ」
「…貴方に、そんなこと言われたくない!」


ソファーにあったクッションを投げつけて、私は口汚い言葉を沢山吐いた。ギルはクッションを片手で受けて、私の罵声を黙って聞いていた。暫くして疲れた私が息を切らしながらしゃがみ込むと、ギルが情けない顔で私を見ていた。


「諦めろ」
「……」
「俺様がいるじゃねえか」


唇を噛み締めることしかできない。泣きたいのに乾いた目はぼんやりと焦点の定まらないままギルを見上げた。彼は私と視線を合わせると、腹が立つくらい悲しそうに口を動かした。何が言いたいのか理解した私は逃げるように俯いてカーペットの上に足を伸ばした。彼が横に座ってきたのを、手で払って顔を背ける。


「鬱陶しい」
「おう」
「…苛々する」


それでもギルは表情を崩さず、ずっと横に居た。私は疲れたせいか眠気が襲ってきたので、ソファーに身体を預けて目を閉じた。

目が覚めると、私の上には毛布がかかっていて、ギルはもういなかった。私は今更になってやっと想いがこみ上げてきて涙を零す。眠ったまま、死んでしまえたら良かったのに。