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私のようなインドア派にはたまらない季節だ。聞くところによるとアウトドア派にもたまらないらしい。つまり色んな人に好かれている季節。涼しくて適度に空気が乾燥していてとても落ち着く。春とは違う、暗色の光。 私は騒がしい教室を出て図書室に来ていた。目当ての本を持って、静かな図書室の中でもより一層静かな場所へ移動する。人が来ないので長方形の大きなテーブルも綺麗だ。他の所のは六人掛けなのにこの辺りだけ四人掛けサイズなのも良い。人が居ても、大体大人しそうな人か上級生が居るか居ないかで、ほとんど私かブル君が独占している。 今日もブル君しか居ない。 真剣に読んでいるのに申し訳ないと思うのだが、私はこそこそと彼に話しかける。 「取って欲しい本があるの」 ブル君は栞を挟んで私の後に着いてくる。外国文学の棚の前で立ち止まり、朱色の背表紙を指差した。背伸びしても届かず、台はガタガタしていてとてもじゃないけど乗る気にはなれなかったのだ。彼は頷いて手を伸ばすと背伸びなんかせずに余裕を持って本に触れた。私よりも背が高いから当たり前だ。しかし不本意ながらドキッとした。男の人に免疫のない私はちょっとしたことでつい反応してしまう。そして、ふと気付いた。 「ブル君、背、伸びた?」 「ん?測ってねーけど…そういえば最近本棚がちょっと低くなったなーとは思ってたんだわ」 「やっぱりそうだよね。前は本取る時背伸びしてたもんね」 「成長期だわ。しかしよく見てるな」 「あとさっき横に並んだ時に、前より見上げるなって気付いた」 「ふーん」 彼は取った本を私に手渡す。私がありがとうと言って早速目次を開くと、頭の上にぽんと手が置かれた。見なくてもそれがブル君の手だということは分かる。じわりと熱が伝わって、心臓が跳ねた。それを悟られないように目線だけ上げる。すると意地悪な顔をしたブル君と目があった。 「小さい」 「…特別小さいわけじゃないよ、私」 「知ってる」 「…ブル君よりは、小さいけど」 「つむじがよく見えるんだわ」 頭に手を置いていたらつむじは隠れているんじゃないかとか思ったけど何故か口には出来なかった。ブル君は満足そうに笑って私の頭からするりと手を離す。何だか恥ずかしくなって、私は本を閉じて胸に抱いた。 「読まないのか?」 「これは、借りてく」 本越しに心臓の音が聞こえる。何やら懸命に血を全身に送り出しているらしい。 カウンターに行って貸出手続きをしてから、私達は先程のベストポジションに戻った。四人掛けテーブルの、ブル君の斜め向かいに私は座る。最初に手に取った借りる予定の無かった本を開いて、読むふりをしながらちらりと彼を盗み見る。本の世界に浸るブル君は、ちょっと、かっこいい。本の世界に居ないブル君も、面白くて好きだ。 私は予鈴が鳴るまで本の世界にも現実世界にも立っていられなかった。
大人しく騙されていて
title:spiritus 過去拍手御礼(2015.9.25-2015.11.21) |