泣き声
こくこくと不規則に揺れる無防備な彼女に、思わず息を呑んだ。
俺は疲れていた。大国にへこへこと頭を下げて目立ちすぎないよう上手く立ち回りつつ機会を狙っていた。長いものに巻かれているふりをしているのが一番だからだ。そうやって己を閉じ込めて顔面に仮面を貼り付けている時に、事件は起きた。

「ほら、もなんか言ってやれよ」

彼女の隣に居た男が、彼女の身体に触れた。
ただそれだけのことだったのに腸が煮えくり返って今すぐその男に飛び掛かって殴りたかった。しかしその瞬間ドイツさんの怒号が響き渡り、チキンな俺の怒りなどすぐさま冷えて萎んだ。会議は大分前から収拾のつかない状態だった。
冷静になって考えてみれば馬鹿な怒りだ。俺がを一方的に好いているだけで、俺と彼女に何の接点もない。それに、彼女に触れた男は彼女とは長い付き合いで、恐らくは俺とルーマニアみたいな、腐れ縁的な仲なんだろう。俺が怒っていい理由なんてないんだ。恋人にでもなったつもりか。俺は一人静かに自嘲する。

はここに残るのか?」
「ええ、いってらっしゃい」

休憩のために会議室を出た男達の背中に手を振るは眠そうな顔をしている。他の国達も続々と部屋から出て行く。俺はわざとらしくテーブルに肘をついて彼女を眺めた。するとまるで俺の存在を分かっていたかのように、俺と同じくテーブルに肘をついて俺と視線を合わせる。自分の持つ色素とは違う、エキゾチックな配色の目が宝石みたいだった。綺麗だ。

「どうしていつも私を見ているの」

いつの間にか目の前に立っていた彼女を、俺は多分呆けた顔で見ていたんだと思う。くすりと笑うの小さな両手が俺の頬を挟むように撫でた。

「答えて」

彼女の宝石が煌いている。俺は天使にも女神にも会ったことはないけれど、多分彼女達と同じ光を持つが急かすように言った。疲れているんだとか、適当な言い訳もできたが、俺はそこまで駆け引きが上手くない。

「好きだから、って言ったらどうする?」
「うん」

それでも主導権を握られるのは男として許せないところがあったので余裕ぶってそう答えると、彼女は予想外の短い返答をする。そして俺の手を取ると、自分の肩へ持っていく。
そこはさっき、彼女の隣に座っていた男が触れた場所だった。

「どうしようか」