「
、寒い?」
白い息の向こうのイースが、振り返って私に問う。そういう彼は決して寒そうではなかった。やはり寒さには慣れているらしい。
「寒くない。大丈夫よ」
「そう。もう少しで着くから頑張って」
毛糸の手袋をした私の右手をぎゅっと握って、彼は少しだけ速足になる。寒くないと言ったけれど、本当はとても寒い。歯と歯がぶつかるのを懸命に抑えていた。そんな私に、イースは気付いていたらしい。
まったくいつの間にそんな技を身に付けていたんだろう。
「イースってば、女の子にモテるんじゃない?」
「何それ。くだらない話題」
「あら、私はいたって真面目に訊いてるのよ」
「…別に、そんなの知らない」
やや後ろから見た彼の耳がほんのり赤くなって、私は口角が上がってしまう。
「好きな子にさえ好かれれば他はどうでもいいって?ふふ、モテる子は違うわね!」
「何言ってんのさ!勝手に僕のこと解釈しないで」
「でも好きな子いるんでしょ?ねえ、どんな子なの?」
「煩い。好きな女なんかいない」
「いいじゃない。ノーレ達には内緒にするわ、勿論」
自分でもちょっと引くくらいはしゃいでいると、不貞腐れていたイースが歩くスピードを緩めてちらりと私を見た。
…本当に、いつの間にこんなに大きくなったのかしら。
「もし付き合うなら…」
「うん?」
「
みたいな人がいい」
「年上がいいの?」
「…そういうことじゃない」
「じゃあ、私のどういうところがいいの?」
すると、彼は突然私の前に移動して道を遮った。ぶつかりそうになったけど、それよりもイースの顔に釘付けになる。耳だけじゃなくて、顔まで真っ赤だ。
「
は馬鹿だね」
「何がよ」
「子供扱いしないで」
「してないわ」
「もし僕が
の彼氏で、
が僕の彼女だったとして、駆け落ちしようって言ったらどうする?」
「するんじゃないの?」
「どうして?」
「駆け落ち出来ない男となんか付き合わないわ、私」
「そういうところ」
「え?」
「そういうところが、すき」
そう言って素早くくるりと前を向いて、再び私の手を引いて歩き出す。一体何だったのだろうと色々尋ねたいけど、まさか好きとまで言われるとは思っていなくて、不意打ちで訊いた私も良い意味でちょっと気まずかった。
昔はよく私の後ろを着いてきて、声も高くて、私よりも背が低かったのに。今では、彼が座ってくれないと頭のてっぺんも見えない。
男の人、なんだわ。
意識すると急にどくどくと鮮明になる心臓の音に、涙が滲んだ。
「着いたよ…って
、どうしたの?泣くほど寒い?」
「え…あ、ううん、違うの。素敵だなって思ったのよ」
「何が」
「イースのことが」
「…へえ」
家の中から漏れるデン達の騒がしい声に思わず笑うと、ちょっと固まっていたイースも呆れたように笑った。
さようなら少年
2013.12.28
お茶会楽しかったです。またお話しましょう!