ラブホテルで待ってる
少しアルコールの回った頭で家に帰ってきた。ひんやりとした床を求めて玄関にぺたんと座り込むと、なかなかリビングまで来ない私を不思議に思ったのかルー君が名前を呼ぶ。


?どうしたの?大丈夫?」
「あー…うん。大丈夫よ」


冷たい床に熱い手を置いて、そのまま横たわる。ある程度加減したと思ったけど、ちょっと痛い音と共に私の頭は床に吸い付いた。じわりと広がる鈍痛に目を瞑る。程なくして痛みが抜けてくると、天井をぼんやりと見渡して無意識に小さく唸る。眠くなってきた。


「…、ほんとに大丈夫ー?」


さっきの頭をぶつける音の後静かになった私を心配して、彼もまた同じようにふらふらした足取りで玄関までやってきた。顔が赤いのがどうも卑猥だ。私の頭はアルコールでちょっとおかしくなっているらしい。


「わ!大丈夫じゃないじゃん!」
「あんまり声張らないで…」
「死なないでーー…」


しゃがみこんだかと思えばそのまま私の隣に横になって私のおでこを撫でる。そして大袈裟なことを言いながら足を私のそれと絡める。彼が横たわったせいで廊下が狭くなった。壁が近いし、動きづらい。しかもルー君の身体は火照っていて床がすぐに温くなる。絡めた足からも熱が伝わってきて、いつもなら酷く安心するその体温も今は不快でしかなかった。私は無言で彼に背を向けて壁と対面するけど、可哀想な呻き声と共にルー君が私の背中を抱き締めた。可愛い、でも暑い。


「ルー君、暑い…」
「んー…そうだね…」
「ちょっと、」
「うん、好きだよー…」
「聞いてる、」


の、と続くはずだった言葉を遮ったのは熱くて湿った彼の唇だった。私の髪の毛の中に侵入してその先の露出した首に吸い付き、唇の裏側まで押し付けて私の体をより一層強く抱き締める。熱い粘膜がふわふわしていた私の身体を緊張で支配する。後ろにいるはずの彼の行動がよく分かってしまうのは、前戯の最中によく鎖骨にそれをされているからだった。まさかこんなにも自分が敏感になっているとは思わなかったけど。
私が驚いて一瞬反応してしまったのをいいことに、ルー君は自分の唇を押し付けたその箇所を丁寧にねっとりと舐め始める。恐ろしいのは常に唾液が分泌され続けていることで、当然乾くこともないし、彼が舌を這わせる度に厭らしい音が聞こえた。別に性感帯でもない場所を舐められて感じてしまうのは不本意だ。だけど、時折息を漏らしながら私を舐めるルー君に興奮する私は正常だ。心臓がドキドキして、息が上がっていく。


「…ん、」
「ルー、くん…」
…」


やっと離された彼の唇から零れる熱い息に身震いした。彼は荒い息のままおもむろに私をくるりと半回転させて、自分と向き合うようにする。力が抜けてされるがままな私は再び彼の赤い顔を見た。やっと希望通りの体勢になって満足そうなルー君が、今度は優しくて緩い、長いキスをする。アルコール色の彼の息が口の中で私のものと混ざる。でもよく考えたら私の息も彼と同じアルコール色だった。私は何だか嬉しくて、彼の舌と触れ合う度に笑った。その拍子に短い声が出る。


、」
「なあに」
「楽しそうだねー…」
「んー…大分回って頭めでたいのかも」
「何が回ってるのー?」
「アルコール?」
「あー今日遅かったもんね…おいらは早く帰ってきたのにー」
「なかなかタイミングがね…でもルー君だって結局飲み会行ってきたんでしょ。可愛い女の子達と飲んできたんでしょ…」
「やきもち可愛いねー」
「違うわよ」
何してるかなーって考えながらお酒飲んでたら、なんかこう……えっちい気持ちになったから、帰ってきたんだよ」
「何考えたの」
「…えっちいこと?」
「またアーサーに変な本借りたのね?最低」
とのえっちいことだよー…それにアーサーのあの本はフランシスに押し付けられて…あーもう助けてよーおいらあの本触りたくない…」
「何で私なのよ…取り敢えずフランシスにはきつく言っておくけど……でも何で触りたくないの?」
「あの手の本とかAVとか、怖いんだよ…」
「…私の裸好きなのに?」
「うーん…おいらじゃないと勃たないみたいなんだよ」


私じゃないと勃たないって、なんて厭らしい口説き文句なんだろう。そう思ってから、気付いて、ふいに実感する。私、口説かれてる。


「というか、だって、男と飲んできたでしょー。どこ触られたの?」
「え…どこも触られてないけど」
「嘘。男物の香水のにおいがするんだよ…」


おいらのなのに、と呟いて私のにおいを嗅ぐルー君の頭をそっと撫でると、初めにぽかんとした表情をして次に幸せそうな笑顔を見せた。そんな彼に油断して和んだのがいけなかった。そのまま私の上に覆い被さって至近距離から色っぽい視線を寄越す。潤んだ瞳が余計に官能的だ。


「…ここじゃ、駄目よ」
「なんで」
「背中、痛い」
「じゃあ一緒に風呂入る?」
「ベッドがいい」


なんて、言ったところで聞き入れてはもらえないのだろう。ずっと考えないようにしてたけど、私の首を舐めてた時から、自分の腰に当たる彼のそれがだんだんに硬度を増して主張が強くなっていくのを私は知っていた。喋っている最中もいじらしく我慢していたに違いない。なんて、愛おしい。
早くも私の服を脱がしにかかるルー君の腰に手を伸ばしてベルトを掴む。意味を理解した彼が私にキスを送りながら、外しやすいように少し腰を浮かせた。




ラブホテルで待ってる
2014.6.21
title:深爪