泣いたりしてばかみたい
HQ:二口堅治
title by 草臥れた愛でよければ
noobodyのかりんさんとの合同ミニ企画で書いたお話です
同タイトル同キャラでそれぞれ自由に書きました
2016.1.22
*高校卒業後、大学へ進学した設定です。


三年の夏、何を思ったのか就職でなく進学を選んだ俺は死に物狂いで勉強しどうにか合格を勝ち取った。その進学先で一年を過ごしてから、再会した。変わらない髪色に安堵を覚えて、酷く女らしくなった身体にドギマギした。

「あ、二口」

大して驚いていないのだろうその顔は、俺の褪せた気持ちを掘り起こすには十分すぎる。部活の先輩後輩の延長を思わせる、日常的な所作だ。
高校生の時は進路をいくら尋ねても「決まったら言うよ」なんて都合のいい言葉ではぐらかされて、けれど彼女は引退してから部活に顔を出すことはほとんどなかった。卒業後も同じである。連絡先は知らなかった。だからまさか大学どころかゼミまで一緒になるとは思ってもみなかったのだ。俺は間抜けな返事をした。

「誰?知り合い?」
「高校の時の部活の後輩」

友達らしき人に訊かれて、さんが俺をそう紹介する。いや、分かっているとも。彼女にとって俺はそのポジションでしかないことくらい。進学先だって意図的に隠していたとしか思えないもんな。茂庭さんでさえ知らなかったんだぜ。
それにしてもさんの落ち着きようには少しだけ腹が立つ。俺を見てもっと驚愕して、しどろもどろになればいいのに。俺が他の伊達工OBにばらすとか考えないのだろうか。秘密にする代わりに私にやれることなら何でもするわとか、じゃあまずは服を脱いで下さいとか、そんな美味しい展開になったりしないのか。いや、無いか。
モヤモヤした思考を抱えたままだったせいかゼミの教授の話を半分以上逃してしまう。休憩時間になって、俺のすっからかんなルーズリーフを見たさんが笑った。頭だけは変わらない、だそうだ。余計なお世話だと思う。

「そういうさんは随分色気づいちゃって。男でもできたんすか?」

仕返しに意地の悪い質問をしてみる。頭だけは変わらずアレな俺と同じ大学にいることに驚かなかった彼女が、これで動揺の一つでもすればいいと思った。

「口だけは達者なんだから」

半ば呆れたように、半ば楽しそうに、さんの口から流れる言葉の真意は分からなかった。またはぐらかされたと理解するにはさほど時間を要さない。この人は慣れているのだ。俺は溜息を押し殺す。

「二口は、彼女の一人でもできた?」

高校時代から意外とモテたもんね、なんてからかうような顔で見られる。俺は彼女の真似をして曖昧な笑顔で返してやった。

さん、飯行きませんか」

彼女と彼女の友達が何か言う前に、さんの手を引いて連れ出した。それでも尚、さんはきょとんとした様子で俺に連れていかれるだけだった。学食を過ぎた辺りで振り返り、彼女の手を離す。

「何か言うことないんですか」

そこでやっと、彼女の顔から笑顔が消える。試合前の、彼女の緊張した面持ちを思い出した。以前、選手でもないくせにとからかったことがあった。でも今は反省している。彼女も、俺達と同じ気持ちだと分かったからだ。

「二口は、いつも質問ばかりね」
さんはいつも本当のことを言いませんよね」

面倒な問題児だった俺達のことを可愛がってくれた。先輩達を上手に使って、支えていた。バレーのこともそれ以外のことも沢山教えてくれた。だけど肝心の、彼女自身についてはほとんど教えてくれなかった。心をどこか遠くに追いやっている人で、もう一歩先には踏み込めなかった。

「知りたいんですよ、さんのこと」
「私のことを知って、二口はどうするの?」
「どうしてほしいんすか」

さんの目が揺らいだ。烏野に負けた時の、彼女の顔がよぎる。 この人が泣いたのは後にも先にもこの時だけだった。

「どうしてほしいって…」
「教えて下さい。さんのこと」

そうだ、ただの欲だ。知識欲と呼べる程崇高ではないが、下劣でもない。やっぱり俺は高校時代から何一つ変わってはいない。頭も阿呆のままだ。断ち切ることも出来ずに引き摺ってきた。ずっと知りたくて触れたくてたまらなかった。彼女が好きだ。
躱すのは、逃げるのは、もう許さない。


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