棺としてのひと夏
柩としてのひと夏
APH:勃
*R-15

「…腰、痛くないですか?」
「大丈夫」
「他のところは…」
「痛くないよ、大丈夫」

ベッドに座る私の前に跪くブル君は、何度目か分からない謝罪の言葉を口にした。私は本当は怠く重い身体を隠して、上は何も着ていないブル君と向き合っている。
昨日、私と彼はここで体を重ねた。大学から帰る時に一緒になって、気付いたら彼にホテルへと連れ込まれていて、気付いたら服を脱がされていて、気付いたら抱かれていた。拒否できる環境はあったし、嫌がったら多分ブル君はやめてくれたと思うが、彼氏に振られて自暴自棄になっていた私は抗うことなく身を委ねた。今思えば、ただただ寂しかっただけだ。誰から与えられたものでもいいから温もりが欲しくて、つい彼の手を取ってしまった。彼との相性はとても良かったし、何で持っていたのか分からないがゴムでちゃんと避妊もしてくれたので何の問題もないはずだった。私と繋がりながら、彼が私に好きだというまでは。
ブル君は今みたいに私にすみませんと、だけど好きなのだと言った。大事にするとも言った。そう告げられた瞬間私は泣き出してしまって、どうすればいいか分からなくて、だけどもう戻れないなと思った。その後のことはあまり覚えていない。気付いたら朝で、隣でブル君が私の髪を梳いていた。すみません、もうお昼なんですと呟いた彼に、そういえば今日も講義があったなとぼんやりと考えた。

「昨日は…本当に……」
「…忘れていいから」

視界が歪む。彼が酷く苦しんでいるのが居たたまれない。あれは私が悪かったんだ。私が仕向けたようなものだ。彼の気持ちを知っていたらその手を取らなかった。付き合ってもいないのに、私が止めるべきだったのに。
ブル君が私の両手を握る。

「忘れません。絶対に忘れません。さんを抱いたこと、気持ち良かったこと、さんの感じてる顔、泣いてる顔、全部」
「なんで…」
「好きだからです…すごく。だから俺、忘れて無かったことにはしません」

昨日泣きすぎたせいで腫れぼったくなった目の周りがひりひりと痛い。その皮膚の上に新たな涙が落ちる。彼が私の身体を労わるように包み込んだ。私の薄いシャツ越しに彼の体温が直に伝わる。
あたたかい。

「俺と付き合って下さい」

私はブル君の肩に自分の顔を押し付けた。止まることを知らない涙でびしょびしょになって、風邪をひいてしまえばいいと思った。それでも彼の体温でじわじわと浸食されていくどうしようもないミーハーな心が息を吹き返す。
付き合って下さいだなんて。セックスまでしたのに。私はただ寂しかっただけよ。

「私のこと、好きになったら駄目よ」
「…もう、手遅れなんで」
「……後輩の癖に生意気ね」

彼が苦笑する。息が耳に当たって思わず身震いした。私は彼の背中に腕を回して、少し伸びた爪を軽く立てた。そのまま力を込めずに適当になぞる。私を抱き締める力が強くなった。

「大事に、してくれるの」

暫し沈黙があって私がやっと発したのはかわいそうな女の確認だった。馬鹿らしいにも程がある。それでもブル君は無言で私にキスをすると、名残惜しそうに私を解放した。
二人で手を繋いでホテルを出ると、雨上がり独特の、太陽に熱されて蒸発していく雨水のにおいが鼻を擽る。決して綺麗ではない、だけど縋るしかない、恋の始まりのにおいだった。