言ってから、しまったと思った。もっと緻密に大事なものを積み上げてから、それから、だったのに。頭の中で描いていた理想なんて所詮は作り物だった。いや、俺がそうしてしまった。思いだけが先走るとろくなことがない。俺達の周りには、好奇の視線を無遠慮に浴びせる人や行く末を見守ろうと目を輝かせている人が何人かいて、俺は正直消えてしまいたい。だけど目の前の彼女の方がもっと悲惨で、顔を真っ赤に染め上げて少し俯いてしまっている。瞬きしたら今にも涙が零れてしまいそうで見ていられなかった。それなのに、俺は自分の失態や羞恥、それから俺達を少なからず面白がっているギャラリーに苛々して、加えて当たり前のことだけどこんな反応をしている彼女に申し訳なくて、何も言ってやることが出来なかった。部屋の外では昼休みの喧騒が徐々に広がり始めていて、休み時間中この部屋を使うのであろうサークルかボランティアの人達が、なかなか部屋から出ない俺達や他のゼミのメンバーを急かすような言葉をかける。それに対して周りの取り巻きが事情を説明したり、今いいところだからと言って新たなギャラリーが生まれる始末だった。俺を救ってくれたのは友人のルーの一言で、彼は俺とゼミのメンバーに早くここを出るように声を張った。そして可哀想に固まっているにも小さく同じようなことを呟いて、肩に手を置いた。彼女は俯いたまま自分のバッグを持つと早足で部屋から出て行ってしまう。俺がそれを茫然と眺めているとルーに蹴りを入れられた。早く行けと顔で言ってくる。俺は我に返って彼女の後を追った。 「……あんなところで、あんなこと言うなんて、最低以外にないわ」 は人のいない小さなミーティングルームに逃げていた。俺は返す言葉も見つからず、でもただ謝罪するのもどうかと思って黙っていた。いつもは座る時にスカートの皺を気にするのに、彼女はくしゃくしゃになったプリーツをそのままに、しかも机の影、床の上に座り込んでいる。俺は彼女の痛々しい小さな背中に激しく後悔しながらも、ゆっくりと彼女に近付いた。 「」 「煩い。…何も言わないで」 「もう一回言う。好きだ」 彼女が勢いよく立ち上がった。その時にぶつかったのか机が揺れた。の目からは涙が零れていた。 「なにそれ…最低。最低よ」 「うん」 「分かってて、何でまた言うの…!?」 「ごめん」 そう言って彼女の前に立つ。彼女は一歩後ずさった。 「私、もうゼミに出られないわよ…ブル君のせいだからね」 「俺と一緒に行けばいいんだわ」 「皆に勘違いされるじゃない」 「事実だから仕方ないだろ」 未だにぽろぽろと流れ続ける涙に手を伸ばすと、彼女が潤んだ目で俺を睨んだ。俺は眩暈がして涙に触れるのをやめ、恐る恐る彼女の背中に手を回す。柔らかくて甘い、彼女のにおいが香った。が俺の肩に顔を付ける。 「…お返し」 見ると、彼女のメイクがシャツに付いていた。肌色になった場所の真ん中には赤い口紅がほんのりと浮かんでいて、が口元を緩めながらまた泣いた。 |