好奇心というものは
バケツをひっくり返したような雨だ。菊の美しい家が悲鳴を上げている。ゴーゴー、ミシミシという恐ろしいそれらの音に混じるのは、畳を皮膚で擦る柔らかくも痛い音だ。
土砂降りの雨の中、私は着替えも持たずに菊の家に来た。深い意味は無かった。ただこんな酷い天気の中、差しても無駄な傘を差して全身濡らして現れたら、菊はどんな顔をするのだろうと思っただけだ。
歩く度に靴が吸い込んだ雨水を吐き出す感覚が気持ち悪くなってきた頃、私は自分の愚かなこの好奇心を初めて恨んだ。身体はとっくに冷え切っていているのに菊の家はまだ遠い。雨足は強くなる一方で視界はどんどん悪くなる。遭難してしまうんじゃないかと本気で感じた。
だからやっとの思いで彼の家に着いて、驚いた顔をした菊が私にタオルを渡しながら「お風呂沸かしますね」と言ってくれた時は、多分今年最高の至福を手に入れたと思った。

「頭打ちました?」
「お前は頭おかしいって言われてる気分」
「どう捉えて頂いても構いませんよ」

冷たい指が私の頬を撫でる。菊の向こうでは鉄格子のような天井が私達を見下ろしていた。まるで閉じ込められている気分だ。お風呂から上がって私と一緒に遊んでくれていたぽち君は空気が読めるのかどこかへ行ってしまった。部屋には菊と私の二人だけ。そして菊は、着物の袖を鬱陶しそうにしながら私の上にいる。
一体何が彼を刺激したのか分からないけど、もうこうなってしまっては逃げる術など無いに等しいので、私は諦めの気持ちを溜息を吐くことで昇華させた。すると菊は不満げに、眉間に皺を寄せる。ああ、面倒くさい。間違えてしまった。

「そんな顔をされると、ますます遊んで差し上げたくなりますね」
「そのセリフ、似合ってないわよ…コスプレでもする?」
「破廉恥ですよ」

破廉恥なのはどっちだ。私の服の下に手を這わせる菊の手がくすぐったくて変な声が出た。彼の口角が上がる。単純な男だ。だけどそんな彼を見て気持ちが高揚する私もいる。
家が軋む音が小さくなる。雨が少し弱まったようだ。このタイミングで家を出れば良かったかしら。でもそしたら私はびしょ濡れになることはなく、菊の家のお風呂に入ることもなかっただろうから、結果オーライかもしれない。

「あ、ねえ」

上半身だけ起こすと何を思ったのか菊が体重をかけてそれを制した。もう待てないと言わんばかりに私の唇に噛み付いて、欲をたっぷり含んだ唾液を私に流し込む。逃がす気はないらしい。
馬鹿ね、襖を閉めてほしかっただけよ。