勝利宣言
勝利宣言
APH:米  2012.1.14
2011フリリク


「ああ、憂鬱」


朝っぱらから部屋のカーテンを閉めきって、借りてきたDVDを観ていた。アクション系を中心に、ホラー映画やコメディ映画を次々と消化していく。がその言葉を発した時、最初の映画を観始めてから六時間以上経過していた。
なんだい、憂鬱って。俺が言いたいくらいだ。勿論映画は好きだけど、それよりも上司に押し付けられた期限付きの仕事の方に気が取られてちっとも集中出来やしない。それを知ってか知らずか―――いや、もう意図的としか考えようがないだろう。俺は最近寝不足気味で、会議に出た際隈が出来ていると笑っていた彼女だ、この状況は理解していたはず。そこに俺が観たがっていたものだけを大量にレンタルし勝手に家に上がり込んで、お菓子の袋を開封する音が聞こえた時には、テレビからよく聞くBGMが流れだしていた。
俺の制止する声なんてまるで無視だった。
仕方なくを放置して書類の束を睨み付けるが、会話のシーンに入ると彼女が音量を上げるので嫌でも耳に入ってくる。ちらちら視線を送っているうちにストーリーに入り込んでしまい、この様だ。を追い出すことも俺が部屋を出ていくことも出来たのにやらなかったのは、所詮俺だからだ。俺は映画が大好きなの恋人だから。そんな言い訳を脳内で繰り返し唱えていた。


「目が痛い」
「だろうね」
「…もうちょっと心配してくれないの?」


でもやっぱり苛々していたんだ。がこてんと首を傾げながら微笑んでも、今は全然キュートじゃない。寧ろ癪に触る。俺が彼女から目を逸らしだんまりを決め込むと、は肩を竦ませてリモコンの停止ボタンを押した。


「アル、一緒に寝ようか?なんだか眠くなってきた」
「What?誘ってるのかい?」
「やだ、アーサーにそっくり」
「彼の名前を出すのは控えてくれよ。…ねぇ、ほんと、君は何がしたいの?」
「怒ってる?アルの仕事の邪魔するために、貴方が前観たいって言ってた映画ばかりレンタルしてきて、勝手に家に上がり込んで勝手にDVD観てるこの最低な女に」
「やっぱり邪魔しに来たのかい」


悪びれもしない態度が酷く気に食わないが、口論する体力が無いので出かけた文句を飲み込んだ。勝手な振る舞いの目立つ彼女に俺はいつも振り回され疲れている。
はにこにこ笑って、俺の手を握った。生ぬるい彼女の体温が直に伝わり、その様子を恍惚な表情で見つめたかと思うと、まばたきと同時に涙を溢した。俺は本当にびっくりして、どうしたら良いか、分からない。


「ああっほら、目を擦っちゃだめだ、泣かないで。これ以上目が痛くなっても知らないぞ」
「……ドライアイ」
「ドライアイ?」
「医者にそう言われたの。何故かしら」
「うーん…長時間ディスプレイを見続けてるからじゃないのかい?君は休みの日もずっとパソコンしてるし……ドライアイだって?」
「目が乾いた、痛い!」
「Oh!!なんだい!君は俺を騙したのか!」
「何の話?」
「急に泣き出したから本当に驚いたんだぞー!もう!」


はただ目を細めて困った顔をした。


「泣いたのはドライアイのせいじゃないわ」


その表情のまま唇だけ動かして刺すような空気を吐き出す彼女が遠く感じる。はカーペットの上に放ってあったDVDとDVDケースを拾い上げる。その中から空のケースを一つ見付けてレコーダーから取り出したDVDをしまった。


「私を気遣ってくれてありがとう」
「……」
「仕事の邪魔をしてごめんなさい。本当は貴方を困らせたかったわけじゃないの、…結果、困らせたけど」
、」
「私、そろそろ帰るわ。明日からまた普通に仕事だし。じゃあね、また」


抱き締めていたクッションを俺に投げて、はいつの間にかしまい終えていた大量のDVDをトートバッグに入れた。一度だけこちらを振り向いて、さっとコートを着込んで逃げるように出ていく彼女の後ろ姿を眺めていた。
クッションから香る甘ったるい匂い。
化粧品か香水か、考えを巡らす前に勢いよく立ち上がりカーテンを開けた。薄暗い空に一瞬顔をしかめ、上着と財布を手に玄関へ走った。





「ありがとう」


近くの公園のベンチにずっと座っていたらしい彼女の身体は恐ろしい程冷えきっていた。


「アルは優しいね」
「…俺は馬鹿だよ。まんまと君の策に填まるとはね」
「気付いてたの?」


言うやいなや彼女にハグをして鼻で息を吸い込み、甘い甘い化粧品のにおいの中から俺が使っている香水のにおいを探した。男物独特のつんとした、少しきつめのそれはすぐ見つかる。


「米国内の薬局を色々回ったんだけどね、意外と時間かかっちゃった」
「そんなに大変だったのかい?割と簡単に決めたんだけど」
「私、香水を滅多に付けないでしょ、だから男物には余計縁がないの、それのせいねきっと。全部テスターで、試し嗅ぎっていうの?ずっとしてた。男の店員に不審がられたわ!」
「そういえば、君薬局で香水買ったんだろ?」
「うん、だめ?お洒落さんは薬局で香水なんかお買い求めにならないのかしら」
「さあ…よく分からないよ」


自分の香水のにおいを彼女の身体から嗅ぐのも良いなとピンクな思想になりきる前にを解放してやる。仕事のことなどもうどうでもよかった。


「ねぇ、良かったらこれから何か美味しいものでも食べに行かないかい?」
「大賛成!でもアルが奢ってくれるなんて珍しいわ…槍でも降るのかしら」
「失礼なんだぞ!しかも俺が奢る前提かい!そういうだって、俺に構ってほしかったくせに」
「健全な乙女心よ、貴方とは違う」
「君が乙女か…」
「煩い童貞。それより食べに行く前に薬局寄ってね、目薬欲しい」
「ハジメテは君にあげただろ?」


車にキーを差し込み前に回って助手席のドアを開け彼女に乗るよう促すと素直に身体を滑らせた。脚を上げた際ちらっと目に入った黒い下着にはまだ触れないでおこう。