今までもこれからも
今までもこれからも
APH:瑞  2012.3.17
2011フリリク


「…そのスカートの丈はなんだ」


振り返るとバッシュ君が眉間にシワを寄せて私の下半身を指差している。


「なあに、普通でしょ?」
「そのようなものを普通と呼べるか!リヒテンを見習え!」
「なるほど…こんな煩いお兄様がいるからリヒテンちゃんは捲らないのね。リヒテンちゃんが嘆いてたわ、『私もお洒落を楽しみたいです』って」
「なん、だと…?」
「嘘よ」


クスクス笑うと彼は苛々した顔で私を見た。お兄様大好きなリヒテンちゃんがお兄様を悪く言うはずないじゃない!


「人をからかうな!」
「からかってない」
「貴様…我輩を馬鹿にしているのか」
「してない。しかも女の子に向かって貴様?口の悪いお兄様ね。いい、制服のスカートはこの長さがベストなの。これが短いって言うのならちゃんと他の子達を見てよ、バッシュ君卒倒するよ」
「人と比べるものではない。我輩はお前を心配して、」
「じゃあいいでしょ。いつまでたっても過保護なんだから」


小さい頃からよく面倒を見てもらっていた。バッシュ君のあとを勝手についていって勝手に転んで大泣きし、彼がプンプン怒りながらも私の手を引いて家まで連れていってくれたこともある。今考えれば大した距離ではないけれど、子供にはとても長い道に感じられて、それに転んだ時に膝や肘から流れた血も今まで見たことのない量で、怖くなって余計に泣いた。そうしたら、バッシュ君が困った顔で軽くハグしてくれた。自分の服に私の血が付くのも構わず、ぎこちなく頭を撫でてくれた。とても優しかった。
以来健気に片想いを続けてきたけれど、それを今日で終わりにしたいと思い彼に連絡して彼の大学の近くで待っていたら、こういう時に限ってしつこい男にナンパされてしまった。その男は日本語でも英語でもない言葉でペラペラ喋り、黙っている私を了承の証だと見なしたのか私の腕を引くものだから慌てて男の手を離そうとした時、丁度バッシュ君が来て男の腕を掴んだ。バッシュ君と男が謎の言葉で少し会話した後男が消えたからホッとした。でも恐がっていたような表情を見られるのが嫌で、彼より一足早く歩きだした時に、言われたのだ。スカートが短い、と。


「それよりさっきの男になんて言ったの?ドイツ語?フランス語?あ、イタリア語なの?」
「人の話を聞け。…あれはドイツ語である」
「ドイツ語かー。いつも思うけどバッシュ君凄いよね、さっきの人血相変えて逃げていったじゃない」
「お前のその服装をどうにかしていればあのような男に声をかけられずに済んだのだ。我輩が来たから良かったものを…校則は守れ」
「ギリギリ大丈夫なの。それに明日卒業式でしょ」


この長さはバッシュ君の為でもある。いつまでも私を子供扱いする彼に、私を女として意識させようと色々と努力しているのだ。最も、それらは彼に認められることなく終わってしまうけど。


「…お前も女なのだからその自覚を持てと、我輩は言っているのだ」


ドキッとした。今しがた自分で否定したのに、ふいに褒められて身体が熱い。普段はそんなこと、言ってくれないくせに。彼は自分が言った言葉に照れているらしく私の方に顔を向けてくれないけど、金髪の隙間から赤い耳が見えて可愛い。


「バッシュ君」
「……何だ」
「私、女なの」
「…知っているが」
「バッシュ君、私のこと子供扱いしないで」


私の努力にたまにしか気付かなくても、その「たまに」が私にとってどれだけ特別で嬉しいのか、彼に知ってほしい。大好きだった近所のお兄さんの言うことなんかもう聞かないくらい大きくなってしまった私なのに、いつまでも心配し可愛がってくれているのは解ってる。でも兄妹みたいな関係じゃ足りない。


「好き」
「…
「バッシュ君が私のこと好きなら、ちゃんと女として扱って」


彼が目を伏せた。足が止まる。私の前に立って、ゆっくり私と目を合わせる。リヒテンちゃんと同じ緑色がとても綺麗だった。


「我輩は、お前を女として扱わなかったことなどない」


放たれた言葉に勢い良く顔を上げた。バッシュ君の頬はさっきより赤い。


「化粧すると怒るし、」
「…は素顔の方が良いのである」
「可愛いスカートを履くと文句ばっか」
「そ、そんな短いものを履いていたら男共が寄ってくるだろう!」
「クッキー焼いたのに食べてくれない上、レンジ使う時は気を付けろって言ってきたりしたじゃない。そんなこと言ってたら私何も出来ないよ」
「火傷しなかったか心配していたのである。はそそっかしいからな。…クッキーは家でちゃんと食べた」
「…髪切っても気付いてくれないし」
「…似合っていたから何も言わなかったのだ」


私を女扱いしていたということは、彼は私をちゃんと好きだったのだろうか。それなら凄く嬉しい。だけど、


「バッシュ君は…?」
「何だ…」
「私のこと、好き?」
「…っ!す、好きだと言っているのが分からぬか!」
「やだ」
「な、」
「愛してよ」


バッシュ君がフリーズしている隙に彼に抱き付いた。昔と同じ懐かしいにおいに酷く安心して頬擦りし、そのまま離れないように腕に力を込める。
我に返ったらしい彼がグチグチ言いつつも、ぎこちなく背中に手を回してきた。幸せでつい―――と言うと少し語弊があるけど―――バッシュ君の鎖骨を軽く嘗めたら頭を叩かれた。