![]() 浮遊 「うん、良い記事になりそうだよ!」 「そう…」 フェリは満足げにノートを見つめて、それから私に向かって微笑んだ。端正な顔が綺麗に歪む。私は目を逸らしてフェリのハンカチを握りしめた。いつまでもぽろぽろと涙を零す私に、彼が貸してくれたものだった。お蔭で今は大分落ち着いたけど、まだ鼻の奥がツンと痛い。そしてインタヴュー中もほとんど上の空で、何を話したか覚えていない。 「これを明日までに纏めればルートに怒られないよ。本当にありがとう、」 「あ、うん、大したこと話せなかったけど…」 「そんなことないよ。の話すごく面白かった」 「……」 「あ、もう昼休み終わっちゃうね。教室戻ろう」 私が立ち上がってパイプ椅子を畳むと、ひょいと彼に奪われて代わりに片付けてくれる。女の子は重い物持っちゃだめだよ、なんてふわふわした口調でさらりと言ってのける彼の顔を見ることができない。いちいち反応してしまう自分が嫌だった。 再び人の気配のしない校舎を歩いて賑やかな教室へと歩いて戻る。その間、彼が一方的に喋って、私はどこかに行ってしまった心を隠すように適当に相槌を打っていた。 教室に入る前、フェリに囁かれた。 「悪く、思わないでね」 「…え?」 「困らせたいわけじゃないんだー。俺も、多分菊もね」 このままスキップしそうな勢いで軽やかに教室に入ると、くるりと振り返って彼はまた笑う。 「でも、譲る気持ちもないよ」 そう言って席に着く。私は相変わらず行方不明の腫れあがった心を探すこともせず、彼の隣の自分の席へ戻った。勿論、フェリの顔など見れなかった。 帰りのSHRが終わると、私は図書室に向かった。本当はいち早く家へ帰りたかったけど、昨日のことがあったのでどうも怖くてしょうがない。昨日は一人ですぐに帰ってしまったせいで、菊に見つかってしまったのだと思うと躊躇ってしまう。普段ならそんなことはただの偶然だと思うのに、疲れて思考が巡っていかなかった。一昨日から色んなことがありすぎて頭が痛い。ついでに、断片的とはいえ泣き続けているので目も頬も擦れて痛い。 とはいっても図書館が避難場所になるとは限らないことも分かる。菊のこともフェリのことも、本当に直前でさえ何も気付けなかった。空気なんてあてにならない。またどちらかと鉢合わせになる可能性だってある。そうなったら逃げるしかないけど。 図書室のドアを開けて、カウンターの側からこそこそと図書室全体を見た。そしてほっと胸を撫で下ろす。目に届く範囲に、彼らはいない。 「」 「わ!?」 「な、馬鹿!でかい声出すな…!」 後ろから名前を呼ばれて、一瞬デジャヴを感じた。 でも私の名前を呼んだのはアーサーだ。 「何だ、アーサーか」 「何だとはなんだよ…ってお前、酷い顔だな」 「失礼ね…」 鏡で確認していないけど、それは想像に容易い。しかしアーサーはその後も、不躾に私の顔をじろじろ見て溜め息を吐いた。本当に失礼な人だ。 「人の顔見て溜め息吐く紳士がいるとは思わなかったわ」 小声で彼にそう言えば、ああ、と何とも気の抜けた返事をする。歯切れが悪い。いつもならもう少し突っかかってくるのに。 「悪い。何でもねえ。気を付けて帰れよ」 じゃ、と手を挙げて図書室を出ていくアーサーの背中を呆然と見送る。気を付けても何も私はついさっき図書室に来たばかりだと言うのに。それに彼だって私の後に部屋に入ってきたはずだ。図書室に用があったのではないのか。 彼は何がしたかったのだろう。
2015.11.13
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