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会議室から遠くて誰も来ないような休憩室に向かう。アンティークなこの建物の壁は、フェリシアーノらしく女が好みそうな色と模様で飾られている。女好きで何が楽しいか一度聞いてみたいものだ。決まった相手がいないと、女という存在全てを愛でたくなるのだろうか。だとすれば、なんて悲しいことだろう。
「呼んでおいて遅れてくるなんて、いい度胸してるじゃない」 感じのいい椅子に腰かけたが携帯から目を離し、俺を見上げる。返事の代わりに微笑み、後ろ手でドアの鍵をかけると彼女の瞳が厭らしく光った。 「何、そういうことなの?」 「心配しなくても、お前が期待してるようなことは起きねぇよ」 そう言って俺は自分の持ち物を全て床に置いた。資料等は落としたといっても違わない。それを合図にも携帯を自身のバッグにしまう。飾り程度に付けられた窓のカーテンを閉めると、昼間なのに薄暗くなる。いよいよどっかのラブホみたいな雰囲気が漂う。 俺はスーツの内ポケットから品の良い薄めの革の手袋を取り出してそれを嵌めた。彼女が不思議そうに眺めている。 「品のある手袋ね」 「分かるか?」 「色が落ち着いてて素敵。高かったんじゃない?」 「レディの前で金の話なんか出来ないな」 笑みを崩さないまま徐々に彼女に近付く。彼女の薄く引かれた紅が綺麗に弧を描いた。そのまま優しく彼女を抱き締める。 だけど、彼女の感触なんてほとんど無い、それこそ触れるだけの抱擁だった。俺は極力彼女との隙間を僅かに作るようにして彼女を部分的に覆う。対して彼女はそれを不満に思ったのか、自ら腕を俺の背に回す。このどうしようもない欲望の差違に興奮して深く溜め息を吐いた。 「お前は、本当に美しいな」 「焦らしてるのならやめてよ」 「焦らしてるのは、お前だ」 「何言ってるの。私は今は貴方のものよ」 が俺の着慣れないスーツの上を身体でなぞる。今日の会議のために、のために、一昨日新しく購入したものだ。会議の前、偶然にも彼女に会えて話すことが出来た。皆がいる中、彼女がこのスーツは見慣れないから新しいのかと聞いてきた。肯定したら素敵だと凄く褒められた。俺は嬉しくて死にそうだった。 それでも、彼女は今この休憩の間しか俺のものではないのだ。また会議が再開すれば、俺達は何も無かったかのように国としての役目を果たしに行く。暗黙の了解だった。 そもそも彼女は誰のものでもない。彼女は彼女のもので、彼女の国民達のものだ。 「お前は俺のものじゃない。お前はものじゃない」 「アーサー、」 「なあ、、お前は本当に綺麗だよ。どうして他人に安易に触らせるんだ。どうしてそんなに無防備なんだ」 「私、別に綺麗じゃないわ」 「その謙虚さもお前の美しさを形作る一部だ…頼むから他の男の汚い手を触らせないでくれ。俺が、いつもお前を見ててやれるわけじゃないんだ」 「考えすぎよ」 「、俺も含めて、男は汚いぞ。俺はお前を汚さないように、こうして手袋を嵌めて、新しいスーツを着て、お前に触らないように万全を期しているのに、なあ、何で他の野郎共は馬鹿なんだろうな。不潔な手でお前を抱き寄せるのは何故なんだろうな…」 緩やかな動作で彼女と距離を取ると、困ったように笑うが俺の手を掴んだ。細い指を滑らせて、俺の手袋をするすると外す。酷く官能的で、時が止まったようだった。 「…そんなに汚い人だったの、アーサー」 「ああ、そうだ。こうしてお前と対面出来るだけで、幸せな男だ」 「私は、それが欲しい」 手入れのされていない俺の手の中に彼女のそれがある。薄暗い部屋の中でも明暗がはっきり分かる。皮膚と皮膚が直にぶつかる些細な音が、熱を持つ。 俺はどうすればいいのだろう。
2014.2.6
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