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title:はたち
「…あの、降ろしてくれませんか」
緊張して敬語になってしまった。思ったよりも震えていた自分の声に、恥ずかしさが一層増した。勇気を出して話しかけたのに、聞こえていないのか彼の顔は相変わらず涼しく凛としている。私は溜息を口の中で噛み殺して、ここに来ている他の国達が通りかからないことを祈るしかなかった。 彼が歩く度に私の身体が揺れる。男にしては華奢な手や腕が、お世辞にも軽いとはいえない私をいとも簡単に持ち上げた時は本当に驚いた。そして正直、ときめいた。未だに心臓はどくどくと激しく動いている。所謂お姫様抱っこというやつで、私を抱えるノルウェーは顔立ちが王子そのものなので傍から見たら本当に格好いいんだろう。生憎私がお姫様から程遠いのが残念なところであるが、まあ、嘆いてもしょうがない。それよりも私はさっきから、ノルウェーの女のように細い身体が心配で堪らないのだ。軋んで壊れやしないか、もしそうなって国際問題に発展したらどうしようかとハラハラしている。 「なんだべ、人のごとじろじろ見で」 「え…いや、じゃあ降ろしてよ…」 「あ?」 端正な顔が歪んだ。あ?じゃないわよ、と思うも、彼は本当に分かっていないようで、目で次の言葉を促した。その間に目的地へと着いたようで、彼は私を抱えたまま器用にドアノブを回す。 「私、別に具合悪くもないし、足も怪我してないし、いたって健康だから」 会議の休憩中廊下に出ていたところをノルウェーに捕まえられて、まともな抗議をする間もなく連れて来られたのは無人の控室だった。使用していた会議室からは少し離れているせいで誰も来ないのだろう。私の言葉のほとんどを無視していた彼がやっと私を降ろしてソファーに座らせる。ノルウェーを見上げると、特に疲れていなさそうだった。 「…んなの知ってら」 「え?」 私の横にどかりと腰掛けたノルウェーの腕が肩に回され、彼の方へ引き寄せられる。 「きっかけは何でもえ」 「それは、どういう…?」 「おめえもそう思うべ?」 息がかかる距離でノルウェーが微笑んだ。言葉足らずの彼の真意にあれこれ思考を巡らすだけで、私のキャパシティーは限界を超えてしまう。腕で頭をぐっと押さえつけられて逃げられず、これはこれで国際問題に発展する案件だと思った。 |