額に口付けてはくれないか


1.
俺は賢い子供の振りをしながら、大人しく彼女に治療してもらっている。自分の行いを反省して、犯した間違いを恥じて、いかにも素直で真面目でまっとうな個体であるかのように、酷く穏やかな顔で目を閉じていた。そうしていないと、何も悪くない彼女に半ば八つ当たりの形で鋭い視線を送ってしまいそうだった。そんなことをすれば彼女は傷付いてしまう。言動に反して、この女性は壊れやすい。それこそ俺のこんな怪我など可愛いものと思えてしまうくらいに。
何だかんだ俺は運が良いのだ。いや、敗戦続きで貧乏くじばかり引きたがる俺の上司の手腕を見れば幸運には程遠いと絶望してしまいそうにはなるが、今もこうやって命を繋ぎとめまた彼女との再会が果たせている。愛しい家族を置いて、限りある命をさらに削って志半ばで倒れていく俺の一部たちのことを思えば、何があっても生き残らねばならないと強く自分を保っていられるし、憎しみや悲しみを餌としてこの身体は極限まで動いてくれる。命に代えても何かを守りたいだとか、そういった美しい意志はあいにく持ち合わせてはいないが、だからこそ冷徹な化物として存在できる。そもそも俺が後で俺の一部たちが先なのだ。彼らが先にいて、俺が後なのだ。
非情でいるのにも慣れしまった。

「あの時はあれがベストだったと私は思う。あんまり自分を責めないで」
「分かってる。敵はもっと酷い有様にしてやったんだわ。良い結果を出したんだから、価値はあるだろ」
「一つ、我儘を言うね」
「…は。お前の我儘は我儘の内に入らないんだわ」

そう答えるのが礼儀であり、愛でもあった。

「自分一人が傷付くような真似は、やめてほしい」
「俺にそういう特殊性癖はないんだわ」
「真面目に言ってるのよ」
「俺に、そういう特殊性癖はない」
「……」
「そうだろ?お前がよく知っているはずなんだわ」
「私、ブル君がいつか壊れるんじゃないかって心配」

乾いた息が口から漏れた。壊れる、俺が?それはお前だろう。しかしは、今にも泣きそうだった。俺は途方に暮れる。どうしろというんだ。女を泣かせて喜ぶ趣味だって、そういう性癖だって、ない。
はまだ何か言いたげだったが、彼女の方が俺よりもずっと大人だったので、口を噤んで曖昧に微笑むだけだった。


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2019.2.15 額に口付けてはくれないか
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