自分でもどうかしてると思う。具合が悪いらしい
がぐっすり眠っているベッドの横に、犯罪者ばりの汚い感情で俺は立っていた。俺のタオルケットを被って俺のベッドに横たわる彼女の頬は陶器のように美しい。よほど体調が優れないのだろう。
生憎の雨のせいで家にいることを余儀なくされた俺達は、人目がないのをいいことにひたすらベタベタしていた。何となく湿度の高い室内で、少し肌寒かったせいでもある。本当は家族なんていない俺や
みたいな存在は、どうしても寂しくなってしまう。ちなみに俺の恋人は
ではないし、
の恋人は俺ではない。今俺に恋人と呼べる人は居ない。
にも、話を聞いた限りでは、居ない。しかし、俺には恋人にしたい女が居る。それが目の前の彼女だ。俺の一方的な想いだということは重々承知している。立場だって、弁えているつもりだ。それでも。それでも、だ。国家の化身であることを考慮しても、素直に俺に寄り添った
が嘘だと考えたくなかった。求めるように目を瞑った
が、ただ無防備で無垢な少女だとは思いたくなかった。あわよくば、ひょっとしたら?期待しない方が可笑しい。俺だって童貞ではないのだ。
ぎしり、とベッドが鳴る。俺は無意識に膝をそこに置いて、
を見下ろしていた。俺のベッドで休めと言ったのは俺だ。でも、素直に従ったのはお前だ、
。まっさらなシーツに皺が寄る。白い陶器に薄らと灰色の影が落ちる。綺麗だ。彼女の、アルフレッドの馬鹿を黙らせる真っ赤な唇が好きだった。光を反射して輝いているのに、どこか淀んだ池の瞳が好きだった。その池を縁取る、繊細な睫毛が好きだった。
そっと頭に触れる。ごめんな、でも、誑かしたのはお前だ。
にというより自分に言い聞かせるようにその言葉を口の中で消化し、俺は彼女の唇に吸い付いた。
「…頭が痛いよ、アーサー」
調子に乗って二度目のキスを落としている時、重く閉じられていたはずの彼女の瞼が開いた。俺は内心心臓が飛び出る程びびったが、紳士の嗜みだが男の威厳だかわけの分からない言い訳をして平静を装った。
「痛むならもう少し寝てろ」
「アーサーがどけたら考えることにするわ」
「悪いな、俺は今忙しいんだ」
「私も、そんなに馬鹿じゃないのよね」
最悪股間を蹴飛ばされると思っていたがそんな気力も体力も無いようだ。もしくは。
「アーサー」
「
。こんなことになってこんなこと訊くのも無粋かもしれないが、はっきりさせたいから敢えて訊く。お前、俺に言うことないか?」
「ないことはないけど、それはアーサーもでしょ。犯行が未遂で済むように、先に言って頂戴」
ここまできても断定しないのか。よっぽど出来た女だ。俺は彼女のブラウスのボタンを外しながら考える。仮に断られたとしても、未遂でも、今となっては後戻りできない。俺の気持ちは決まったまま変わらない。
「好きだ」
「だから、抱きたいのね」
「具合の悪い女に手を出す程落ちちゃいないと思ってたけどな、実際そんなの関係なかった。結果がこれだ。嫌なら早く断って欲しい」
我ながら酷い言い訳だ。紳士どころかただの屑野郎だ。頬と同じ陶器の胸を見て感動する。青いレースがよく映える。
は虚ろな瞳で俺の手を払うが、本気で拒絶されるまでやめるつもりはない。いや、本気で拒絶されても無駄な気がする。下衆染みた行為に触れた俺は、本当の下衆に成り下がる。
「別に、嫌じゃない」
「それは肯定か?」
「でも今日はできないのよ」
下着の金具を外そうと背中に手を回した時に
が身体を起こして俺の頭を抱き締めた。温い胸に抱かれて暫し俺は閉口する。重力に従いするすると落ちた俺の腕を掴んで自分の腹に手を当てさせた
が、含み笑いをした。
「女の子の日なの」
彼女の細い指が俺の前髪を乱してそこにキスをする。
やっと現実の世界に戻ってきたかのような俺は羞恥で今すぐ埋まってしまいたかった。目に滲んだ涙を隠すように
の胸に顔を埋める。これは、ある意味フラれるより恥ずかしい。
「生理フェチではないのよね?」
「当たり前だばか」
「良かった。血のにおいの中するのって何だか萎えそうじゃない?画的にも壮絶だし」
「それよりもお前、服着ろよ」
「何、アーサーが脱がせたくせに」
穴があったら入りたい。いつまでも半裸でいられると困るので仕方なく自分が脱がせたブラウスを着せることになってしまった。緊張して上手く通せなくて、それを見ている
が楽しそうでむかつく。その顔が一番好きだ。
2015.5.17
title:深爪