|
冷たい空気に凍える。 校舎は本当に暖房を入れているのか疑いたくなるくらい冷えている。窓の外では雪が降り積もる。この調子だと昼前に臨時休校になりそうだ。いつもなら両手を上げて大喜びするが、今日はそうはいかない。おいらはちらりと彼女の席の方を見る。彼女はあのフライパン女と話していて、時折笑顔さえ見せる。 「おいおい、顔面崩れてるぞ」 フランシスの呆れた声に耳なんか貸してやらない。溜息を吐いたフランシスの手の中には、色とりどりのラッピングが施されたプレゼントがあった。おいらは尋ねてもいないのに、女の子に貰ったのだと困ったように白状した彼に曖昧な返事をしておく。それを聞いた周りの男達が何となくそわそわしている。 今日はバレンタインデーだ。日本では女の子が好きな男にチョコをあげる日らしい。チョコと聞いておいらは舞い上がったが、楽しみは今日になって打ち砕かれた。朝も寒いねなんて言いながら一緒に登校したし、一時間目と二時間目の休み時間には声をかけに行ったのに、何もない。 もしかして、彼女はおいらの国というかヨーロッパ全体に見られる習慣に合わせてくれているのだろうか。おいらが彼女の国の習慣に合わせようとしているみたいに。 悶々としていると放送が入り、今日は臨時休校になったことを告げられた。 どうしようか。取り敢えずと一緒に帰らないとまずい。しかしふと考える。彼女はおいらに何も用意していないのではないか。 ゾッとした。たかがバレンタイン、されどバレンタイン。何も無かったら、彼女はおいらのことを好きじゃないんじゃないか。 「ねえ」 打ちひしがれているとが目の前に立っている。怪訝な表情で、おいらを見ていた。 「臨時休校だってね」 「あ、うん…そうみたいだね」 「…一緒に帰れる?」 「え!うん!一緒に帰ろ!」 そう言うとは気まずそうに何か呟いた。しかし聞き取ることが出来なくて問うと、彼女は何故か呆れたように溜息を吐く。 「ルー君って子供みたい」 「え、どこが?」 「ちゃんとチョコレートあげるわ…だからそんな物欲しそうな顔で見ないでよ。朝からずっと。恥ずかしかったわ」 何ということだ。そんなにずっと彼女のことを見つめていたのか。そして気付かれていたのか。見てないよ、なんて言い訳は通用しないのでへらへら笑っていると、がおいらの手にそっと触れる。 「嘘。本当は私の方がずっと機会を窺っていたの」 先生が入ってきた教室は徐々に静かになっていく。彼女はおいらに爆弾を投下して颯爽と席に戻ってしまった。おいらは顔を覆う。恥ずかしさと喜びが混ざり合い溶けていく。相変わらずは余裕があるなあと感心しながら彼女に視線を向けると、彼女は両手を頬に当てて少し俯いてた。愛しさが胸いっぱいに溢れる。決して大人びてなんかいない。年相応の女の子だ。見抜けなかったのはおいら。 可愛いや綺麗だなんて言葉で言い表せない彼女への愛情を等身大のまま、この心のまま与えることが出来る幸せを幸せと感じることが当たり前なら、当たり前とはなんて難しいんだろう。彼女さえいれば他は何もいらない、などと良い子ぶったことは言わない。もっと欲しい。当たり前が普通になってほしい。 そうしてやり直しのきかない日々を、大胆に咀嚼していくんだ。
初恋はどうしてきれいなまま
title:LUCY28 過去拍手御礼(2016.1.25-2016.3.22) |