ごめんねだけは言えない
「寒くなったね」

ほう、と息を吐き出すとそれは白く濁った。枯れ葉が風に乗って地面の上を滑っていく。隣の彼女は何も言わない。おいらは溜息を噛み殺す。
きっかけは些細なことだった。本当に目にも見えないくらい些細なことで、だから何故ここまで引きずってしまったのか分からない。ちょっとした気持ちのすれ違いで、ギクシャクして、尾を引いた。もう何日も彼女と話していない。今日だってやっとの思いで彼女を捕まえて一緒の下校をもぎ取ったのだ。それにしても、必死になるおいらを見るの目は酷かった。氷点下の眼差しだった。怖い。手を振り払われるんじゃないかとドキドキした。嫌なドキドキだ。寿命が百年くらい縮まった気がする。百年も生きられないのに。
でもが好きだから、逆に駄目だった。好きな子に無視されるのは余程堪えるものらしい。彼女と言葉を交わさない時間が辛い。一分一秒さえも、寂しくて死んでしまいそうだった。電話をかけても出ない、メールをしても返してくれない。おいらがリビングで、ベッドの上で、教室で、どんな絶望と共に携帯を握りしめていたか、彼女は知らないだろう。おいらの孤独を味わわせることができるなら、掬って彼女に嚥下してほしいものだ。そうすれば、修復できるのではないか。そんな保証はどこにもないけれど。
陽が傾くのが早くなった。太陽はもう地平線の向こうに吸い込まれて身体の半分近くを大地に喰われている。
、と情けない声で呟いたが、やはり彼女は何も答えてくれない。泣きたくなった。どうしてこんなことに。
置いていかないで。おいらを置いていかないで、

「……あ、う」
「……?」
「な、何で…」

彼女の顔を覗き込むと、丸い黒の湖からぼたぼたと可哀想なくらい涙が零れていた。涙ってこんなに大きくなるものなのかとか、陽が反射して綺麗だとか、そんなことが頭の中を駆け巡ったけど、それよりもびっくりしておいらは彼女の頬に手を添える。するとがもっと泣き出しておいらは慌てた。

「なん、で、何も、言わない、の…!」

しゃくり上げるの断片的な言葉を繋げると、そんな文になった。おいらは精一杯彼女を抱き締めて、ごめんねを繰り返す。ごめんね。もっと早くこうしていれば良かった。無理矢理にでも抱き締めて、温もりを与えて、頬をすり寄せて、仲直りしていれば良かった。言の葉は正確で鮮明で、時にまどろっこしいから。上手に伝えられないから。
がおいらの胸で首を横に振る。

「ちが…私、…ルー君…」
「いいよ、。もういいんだ」

またぐずぐず泣き出すにキスをして、おいらも涙を拭った。彼女が蚊の鳴く声で、無視してごめんねと呟いた。好きだよ、とも。鼻を啜って、うんと頷くことしかできなかったけど。
大好きだよ、






ごめんねだけは言えない





過去拍手御礼(2015.11.21-2016.1.25)