必要なものはいつも見えない
「そういうのは…求めてないです…」

私は服の中に入り込み、私の腰を掴む手を、私の顎に添えられた彼の手の温度を感じながら言う。

「…本当に?」

彼は私の首をぺろりと舐めて言う。

「んっ……」

「本当は嬉しいくせに…」

彼の口角が上がる。私は彼の胸板を押す手にさらに力を込める。けれども、悲しいことに力の差は歴然で、びくともしないのだ。

彼が私の唇をついばむ。

「息継ぎが上手くなりましたね」

「ジャーファルさん…」

私は緩く首を振る。

ジャーファルさんは怪訝そうに眉間に皺を寄せる。

私の心は、きゅっと締め付けられた気がした。












ーー何も要らない、何も求めてなんていない。誰かに何かを期待しただけ、悲しみを背負う結果が待っていたから。

そう私が呟いた時、ジャーファルさんがただ寂しそうに微笑んだことを覚えている。

「私は、に対して様々なものを、いつも望んでしまいます。笑っていて欲しいとか、幸せでいて欲しいとか…側にいて欲しいとか、触れさせて欲しいだとか」

そうして私の頬に手を添える。

「欲しいんです…のことが…」

ーーどうして私なんですか、私の何が、ジャーファルさんに必要だと言うのですか。

頬に添えられたジャーファルさんの手に、自身の手を重ねる。

「私にだって分からないです。でも、あなたじゃないと駄目みたいです」

これは、ジャーファルさんの本心?心からの言葉?私?私が特別?どうして……。

彼の瞳を覗き込めば、涙を流している私の姿が映っていて、あれっ、どうして?と思った時には、ぼろぼろと雫が溢れ始めていた。

は…。私は、の気持ちが知りたい」

私は首を振る。首を振ることしか出来なかった。

きっと、誰でもよかったから。
もう私はとっくに諦めていて、たまたまジャーファルさんだっただけ。

最低だ。

何も要らないなんて、そんなのただの笑えない嘘だ。

本当は寂しくて仕方ないくせに。こんなにも、誰かの温もりを求めているくせに。


私は、この人の優しさに、温もりに、甘えてしまうんだ。












私はジャーファルさんの眉間の皺を人差し指でなぞる。

「ジャーファルさん、ずっと聞きたかったんですけど、それでも聞けずにいたことを、今聞いてもいいでしょうか」

ジャーファルさんが何故今なんだというように、さらに眉間に皺を寄せる。それを見て私は、ほんの少しだけ口角が上がりそうになった。

私は彼の返事を待たずに問いかける。

「どうして、私だったんですか」

ジャーファルさんの眉間の皺が一瞬にして緩んでなくなった。口が半開きで、端正とは言えないかもしれないけれど、独特の格好よさを持つ顔が勿体ないことになっている。

「…何を今更」

「ええ、今更です」

寝台がぎしりと音を立てる。ジャーファルさんに組み敷かれた状態の私が、まだ腰を抱いたままの彼の腕を払おうと動いたからだ。

それを見たジャーファルさんは、けれども腕を服から引き抜いてはくれず、むしろ腰をひと撫でする。

くすぐったい。

は誰でもよかったくせに、私には理由を問うんですか」

「……」

ジャーファルさんの瞳に陰が差す。

「…そうですね、ジャーファルさんの言う通りです。私は、私を満たしてくれる人なら誰でもよかった」

二人してしばらくの間黙りこくる。沈黙が痛い。

「私はですね、あなたの寂しそうな姿に惹かれてしまったんです。一人で月を見上げていたあなたに」

「満たされないって表情をしていた私にですか」

つい、皮肉ってしまった。彼は何も悪くないのに。

「そうです」

「……私は…」

私は、この人に出会って、幸せだったろうか、少しでも満たされただろうか。

「ほら、また泣く」

「えっ……」

私は、いつかの私のように涙を溢していた。ジャーファルさんの手に添えていた自身の手をぱたりと寝台に落とす。

「…ジャーファルさんのせいです」

ジャーファルさんは私の頬に溢れた塩辛い雫を舐める。

「だから、そういうのは求めてなんてないですって」

「嘘ですね…」


ジャーファルさんは笑った。
私はまた泣いた。




ああ、そうだ、必要なものはいつだって見えないから。








必要なものはいつも見えない




2013.12.4
えいちゃんから頂きました!リクエスト作品です。
なんというか酷く私好みなお話にして頂きました…!
甘さと苦さと重さと、反比例な感覚と感情と、正反対な方向と、奥に沈む過去が綺麗に敷き詰められていて、ぞくぞくしました。
私の感想は非常に意味不明ですね…。
えいちゃん、素晴らしいお話をありがとうございました!
これからもよろしくお願いします。